突然死予防と次世代型CT ~地域医療で果たす役割~

 

 突然死は疾病名ではなく予期しない突然の病死のことで、医学的には発生から死亡までの時間が24時間以内とされています。

 急増傾向にある突然死に医療機関として対応するため次世代型CTを導入した一般医療法人回生会宝塚病院の馬殿(ばでん)正人院長にお聞きしました。

事前診断で防ぐことができる突然死

 

 

 総務省消防庁の統計によれば、心原性の心肺機能停止による突然死は年間で約7万5千件以上にのぼります(2013年度)。交通事故の死亡者数は4~5千人で推移していますから、それと比べてもはるかに多い数字であることがわかります。

 「救急車内で救急隊員が行う電気ショックや人工呼吸器を駆使した心肺蘇生、一般の人びとの蘇生法への理解など、もし万一、心肺停止状態の人に遭遇した時にどうすればいいのか、その対応についての理解と知識が拡がっています。街角でも心肺停止状態に陥った人の心電図を解析し、必要であれば電気ショックを与えるAED(自動体外式除細動器)の設置表示を多く見かけるようになりました。こうした環境の変化は突然死の悲劇を少しでも減らすという意味で歓迎すべきことですね。

 ただ、狭心症には自覚症状のない無症候性心筋虚血があるほか、喫煙や糖尿病、高血圧などの危険因子を抱えた人には日常生活での注意をよびかけるしか手立てはありませんでした。とはいえ、医師の立場からすると急性心筋梗塞が発症する前の段階で病変を早期に発見することがベストであり、それが適切な治療や処置につながるのは言うまでもありません」

 

 そこで宝塚病院では2016年5月に次世代型の心臓CTを導入し、事前診断とそこから始まる治療に向けた体制を整え、突然死をなくすための取り組みを開始しました。

これまでの循環器診断を一歩進めたCT

 

 

 同病院に新たに導入されたCTはX線管球を2つ搭載し、従来の1管球タイプに比べて2倍以上の速さで撮影が可能となっています。管球回転を高速化したことでカメラのシャッタースピードに相当する時間分解能が大幅に速くなり、その結果、心臓の撮影時間は僅か0.28秒を実現しました。これは従来の心臓CTにはなかったスピードですが、この速度こそが心臓のCT検査にとっては極めて重要なポイントであると馬殿院長は述べます(註 記者も体験しましたが、本当にあっという間の検査でした)。

 私たちの心臓は24時間休むことなく活動しています。そのために従来のCT検査では心臓の拍動や血圧の上昇を抑えるためにβブロッカー(遮断薬)が欠かせませんでした。しかし2管球CTによる高速2重らせん撮影では薬剤の投与がまったく不要か、それを軽減することが可能となったのです。もちろん患者の状態にもよるのですが、これまでいろいろと制約のあった心臓CT検査を大きく進化させたと言えます。

 心臓検査だけではなく成人の胸部、腹部の撮影も1秒以下のスキャン時間が可能となり、これにより実質的に息止めが不要となりました。息を止めることが困難な人、小児の検査が容易となり、多くの患者にとって朗報になったと思われます。また、撮影速度の高速化は緊急を要する救急患者の撮影にも効果を発揮することにもなりました。

 X線を用いるCT検査では被曝の問題も無視できませんが、次世代型CTは心臓撮影時には1mSv以下で、これは人が自然界から受ける放射線(2~5mSv)を下回ります。

 

 検査とはいえ人への安全性は十分に確保しなければなりません。被ばく量の低減は医療機関として重要なテーマのひとつであり、そういう意味でも次世代型CTはその要求に応えるものであったといえます。

地域社会への貢献

 

 宝塚病院は1956年3月の設立以来、60年にわたって地域社会を支える医療活動に取り組んできました。1985年に急性心筋梗塞の患者への心臓血管(冠動脈)カテーテル治療、1992年には経皮的冠動脈形成術(PCI)を開始するなど循環器分野で豊富な実績を積み重ねています。

 今回のCT導入で心疾患の事前治療が可能となったことを機に、同病院では地域から突然死をなくすことを目指して「友の会」を発足させました(2016年8月)。入会すると最新の胸部CT受診と診断が無料になるほか、セミナーや相談会などを通じて日常的な健康維持のための情報の提供を受けることができます。

 

 「これからは『治す』医療から『防ぐ』医療へ大きく流れが変わっていくと思います。この『友の会』が突然死を防ぐための地域医療の仕組みのひとつとなり、その先駆けとなることを期待しています」

馬殿正人院長の略歴

1975年に関西医科大学を卒業後、同大学附属病院第2内科に入局。2009年から宝塚病院院長。専門は内科一般及び循環器科、腎臓内科。日本心血管カテーテル治療学会専門医・施設代表医も務める。

 

宝塚病院に導入された次世代型2管球CT

 

「SOMATOM Definition Flash」(独・シーメンス社製)