ノーベル賞 本庶先生

 京都大学の本庶佑博士にノーベル賞

免疫反応を利用した新しいがん治療法

 

10月1日、スウェーデンのカロリンスカ研究所は、今年のノーベル医学生理学賞を京都大学の本庶佑特別教授(76)ら2人に贈ることを発表しました。免疫反応のブレーキ役となるタンパク質「PD-1」などのはたらきを解明し、新しいがん治療法の実現につなげたことが評価されました。本庶博士らの研究成果は、免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれる「オプジーボ」などの薬剤として、すでに臨床で活用されています。共同受賞は、米国テキサス大学のジェームズ・アリソン教授。授賞式は12月10日、ストックホルムで行われます。

◆画期的ながん治療薬「オプジーボ」

 免疫学の基礎研究に長年、取り組んでいた本庶博士は1992年、マウスのT細胞から未知のタンパク質を発見し、「PD-1」と命名。のちに、免疫反応のはたらきを抑えるブレーキのような作用があることを解明しました。免疫システムは本来がんを排除する機能を持っていますが、がん細胞の多くはPD-1のようなブレーキ役のタンパク質を悪用して攻撃を免れ、いくらでも増殖してしまいます。そこで本庶博士はPD-1のはたらきを妨げる抗体によって免疫反応のブレーキを外せばがんの治療に役立つという可能性を見出したのです。

 その後、この仕組みを利用した免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれる「オプジーボ」を小野薬品工業が発売したのは2014年でした。現在では皮膚がんのほか肺や腎臓、胃がんなどに適用が広がっており、今後さらに拡大される見通しです。

オプジーボは、ほかの治療法で手の施しようがない末期がんに効果を持つこともあり、これまで助からなかった患者を救える可能性のある画期的な治療法として注目を集めています。従来、がん治療の三本柱だった外科手術、抗がん剤、放射線治療に加え、第四の治療法となりそうです。

 共同受賞のアリソン氏は、免疫反応のブレーキ役となるPD-1とは別のタンパク質「CTLA-4」を発見。こちらも新しい薬剤の開発につながっています。

◆高額な費用や効果の見極めなどに課題

 こうした画期的な治療法にも、さまざまな課題があります。そのひとつは、オプジーボの極めて高額な薬価。当初は患者一人に年間3000万円以上かかると言われ、現在ではその半額以下に引き下げられましたが、依然として高額であることは否めません。保険医療財政に大きな負担となることが危惧されていますが、一方で画期的な新薬が大きな利益にならなければ製薬会社は研究開発を進めることができませんから、これは大変難しい問題です。

 さらに、オプジーボの効果があるのは対象となる患者のうち2~3人に一人ほどだと言われており、それを投与前に見極める有効な手段は現時点で確立されていません。ただ、この点については急速に研究が進んでおり、解明が期待されます。

 オプジーボは従来の抗がん剤とは根本的に仕組みが異なり、これまで多くの患者を苦しめてきた副作用はありません。しかし、免疫反応のブレーキを外す薬なので自己免疫疾患のような副作用を引き起こす可能性があります。劇症1型糖尿病や間質性肺疾患、重症筋無力症といった症状が出ることもあり、無視できません。

◆数十年前からノーベル賞の有力候補

 ところで、本庶博士は数十年前からノーベル賞の有力候補として名前が挙がっていました。まだ30代だった1978年、免疫反応において抗原に応じた5種類の抗体ができる「クラススイッチ」と呼ばれるDNA組み換えの基本原理を解明。90年には、そのカギとなる「AID遺伝子」も突き止めました。これらは免疫学の歴史に残る研究成果で、いつノーベル医学生理学賞を受賞してもおかしくない業績だとされていました。また、本庶博士が師事した故・早石修博士(京都大学医学部長など歴任)もノーベル賞に近かったと言われています。

 今回のノーベル賞は、取るべくして取ったものと言えるのかもしれません。

 

 本庶佑(ほんじょ・たすく)博士の略歴】

昭和17年1月生まれ。同41年、京都大学医学部を卒業。米国国立衛生研究所(NIH)客員研究員、東京大学医学部助手、大阪大学医学部教授などを経て、同59年から京都大学医学部教授。平成8~12年と同14~16年、京都大学大学院医学研究科長・医学部長を務める。同17年に定年退職。同18~24年、総合科学技術会議議員。同24~29年、静岡県立大学理事長。同27年から先端医療振興財団(現・神戸医療産業都市推進機構)理事長(現職)。同29年から京都大学高等研究院特別教授(現職)、同30年から副院長(現職)。医学博士。平成8年、日本学士院賞・恩賜賞。同12年、文化功労者。同24年、ロベルト・コッホ賞。同25年、文化勲章。同28年、京都賞。その他、受賞歴多数。