第1回 乳房再建

 

形成外科専門医常駐の、厚生省認可の病院で手術を
〈シリコンインプラントが保険適用に〉

矢野 健二先生〈大阪大学医学部形成外科乳房再生医学寄附講座教授〉

乳がんはほぼ根治できる病気になり、がん治療後の「乳房再建」の方法、時期などがポイントになってきました。
その中で昨年7月シリコンインプラントが保険適用になりました。
乳房再生の権威、矢野先生にその上手な利用の仕方などをうかがいました。


皮膚がなくなっても
ティッシュ・エキスパンダーでつくることができる


――乳房再建に、シリコンインプラントの使用が、保険適用になったということですが。

矢野 昨年の7月からです。丸いラウンドタイプだけでしたが、今年の1月からアナトミカルタイプという、下が膨らんで、最初から乳房の形をした製品も保険適用になりました。
ただ保険適応は乳がんで片側、あるいは両側の乳房を切除した患者さんの乳房再建のみで、豊胸のシリコンインプラントは、美容外科の領域ですから自費です。

――シリコンインプラントはどうやって入れるのですか。

矢野 乳房皮膚を全く切除せず、乳腺だけをくり抜いたような場合は、シリコンインプラントを覆うだけの筋肉と皮膚があるので、乳がんの傷から筋肉下にシリコンインプラントを、挿入することもできます。がん切除で、シリコンインプラントを覆うのに十分な皮膚がなくなった場合には、ティッシュ・エキスパンダー(組織拡張器)で皮膚のゆとりをつくります。

――どうやって皮膚のゆとりをつくるのですか。

矢野 皮膚と筋肉の下に、ティッシュ・エキスパンダーというシリコンの風船のようなものを入れて、それに生理食塩水を徐々に入れて、術後1か月から3か月かけて、徐々に皮膚を拡張します。シリコンインプラントを入れるのに必要なだけの皮膚ができると、およそ術後半年でティッシュ・エキスパンダーを取り除き、その部分にシリコンインプラントを挿入するのです。
エキスパンダーによって皮膚を膨らませる手術は保険で認められていたのですが、シリコンインプラントを入れるのは自費診療で、患者さんにはかなり負担を強いていました。50万円から100万円ぐらいでしたが、今回これが保険適用になったのです。


患者さんの希望、
手術法の長所・短所を十分説明して


――シリコンインプラントを入れるのは簡単なのですか。

矢野 形成外科医としての究極の目的は、残っているもう片側の乳房と同じような形の乳房を作り直すことです。乳房の膨らみがあればいいのではなくて、残っている乳房と似たような乳房を作ることが必要で、かなりの技術と経験が必要です。
シリコンインプラントは製品化されていて、形・大きさ・幅・高さ・厚みなど、100種類近くあります。その中から患者さんひとりひとりに合わせて選びます。この製品を入れるとこうなるというのは、経験を積んで、ある程度イメージできないとなかなか難しいところがあります。

――保険適用になると、形成外科以外の医師も参入してくるのではありませんか。

矢野 それに歯止めをかけるために、厚労省としては制限をかけています。
まず、形成外科医が常勤している病院でないと手術は受けられない。しかもその形成外科医は専門医の資格を取得している形成外科専門医であって、なおかつ乳房再建の講習会を受講して届け出を出している医師に限られます。
年に3回の講習会のいずれかを受けて資格を取得して、厚労省に届け出をしてはじめてシリコンインプラントを用いた乳房再建の手術ができるシステムにしています。


――次へつづく。


矢野 健二 先生略歴
昭和59年高知医科大学医学部卒業。
香川医科大学助手、国立呉病院形成外科医長などを経て
平成12年7月から大阪大学助手。同助教授を経て、
平成17年より同病院教授。
平成19年より美容医療学寄附講座教授。
平成22年より乳房再生医学寄附講座教授。
日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会理事、
日本形成外科学会、
日本マイクロサージャリー学会、
日本頭蓋顎顔面外科学会、
日本乳癌学会の各評議員。