第2回 乳房再建

形成外科専門医常駐の、厚生省認可の病院で手術を
〈シリコンインプラントが保険適用に〉

矢野 健二先生〈大阪大学医学部形成外科乳房再生医学寄附講座教授〉


――シリコンインプラントの乳房再建の成功率はどれくらいですか。

矢野 健常側の乳房と見比べてみて、同じくらいかなという感じには100%近くできます。
よく見ると多少の違いはあるのですが。

――ラウンドタイプとアナトミカルタイプは、どう使い分けるのですか。

矢野 若い人で、乳房がおまんじゅうを伏せたような感じの乳房はラウンドタイプを使用しますが、少しお年を召されて、下垂気味の大きな乳房ではアナトミカルタイプを使うといった使い分けをしています。

――乳房再建には、患者さん自身の、下腹部の脂肪や背中の広背筋を、血管を付けたまま乳房のあったところへ持ってきて、そこで乳房の形をつくって、生着させる方法もあるとのことですが、そういう方法とシリコンインプラントとの使い分け、違いはどこにあるのですか。

矢野 まず患者さんの希望です。「人工物は使いたくないという患者さんには、今言われた、背中やお腹の組織を生着させる方法をお勧めしています。中高年で、お腹の脂肪組織がたっぷりある方には、余分な脂肪を胸に移植するのは一石二鳥ですから喜んでこれを受ける方もおられます。
このように、ひとりひとりの患者さんの、希望・体の状態などをお聞きし、またそれぞれの手術に一長一短がありますから、それらを総合的に判断して手術を決めます。


同時再建が理想、
2回の手術が必要なことも


――シリコンインプラントを入れたり、ティッシュ・エキスパンダーを入れたりするのは、どんな乳がん治療でも使えるのですか。

矢野 皮膚を全く切除せず、乳腺だけをくり抜いたような場合は、乳がんの手術の時に乳腺外科医が手術をした後、すぐに引き続いて形成外科医が手術室に入って、乳房再建に取り掛かり、ティッシュ・エキスパンダーを入れて、その半年後にシリコンインプラントを入れることができます。乳がん手術と乳房再建の同時手術です。手術が一度で終りますので理想の方法です。

しかし、乳がんが進行していて、手術でがん細胞が取り切れない場合、早期であっても乳腺内での病巣が広く、乳房温存手術ができない場合、リンパ節への転移が予想され、放射線治療、抗がん剤の治療が必要な場合などには、同時手術はできない場合があります。その時には手術をした乳腺外科医が1年から5年の経過を見て、「再発がないから再建していいよ」と認めたときにはじめて、形成外科で乳房再建手術をすることになります。手術をもう1度受けるのは大変だという理由で日本では受ける人が少ないのですが、シリコンインプラントの保険適用を機に、ぜひ受けていただきたいと思いますね。

また最近は、乳房再建という概念がかなり浸透してきましたので、外科の医師だけが手術する場合でも、「こんな切り方はしない方が良い」「こういう縫い方はいけない」「ここは切ってはいけない」などと、乳房再建との同時手術でなくても、乳房再建を前提とした乳がん手術を多くの外科医が実践しています。

1)術前写真。左乳癌に対して乳房切除術施行された後の状態。
 2)左前胸部にエキスパンダーを挿入した状態。
 3)術後写真。患側と豊胸目的で健側にもシリコンインプラントを挿入した状態。 



「日本乳房オンコプラスティックサージャリ―学会」のホームページで確認し、患者さんが納得して治療を


――最後に、再建手術を受けられる方に「これだけは」というメッセージを。

矢野 乳がんになると、びっくりして、うろたえたりされるとお察しします。しかし乳がんはほぼ根治できるがんになっていますから、乳がんの手術を受けたあと、乳房の形をどうしたいかをしっかり考えていただきたいと思います。上手に乳房再建をしてくれる病院はどこかなと探すのが何より大切です。
シリコンインプラントやティッシュ・エキスパンダー治療のできる病院として今、「日本乳房オンコプラスティックサージャリ―学会」が認定している病院は、全国におよそ300施設あります。インターネットで「日本乳房オンコプラスティックサージャリ―学会」と検索すると、そのホームページに、その病院名が出ています。
そのお近くの病院の中で、再建の利点だけでなく、リスクも、きちんと説明してくれるかどうか、手術実績が、どれぐらいあるかなどをチェックして、患者さん自身が十分納得して乳がん治療と再建治療を受けられることをお勧めします。

――乳がんにかかるまで、乳房の大きさとかにコンプレックスを持っていた人が、これを機会に自分の理想の乳房にするということはあるのですか。

矢野 あります。小さい乳房で、片側が乳がんになって、乳房再建の時に、「健常な片側より大きくしてください。健常な乳房はあとで豊胸します」という患者さんはかなりおられます。そこまでプランを積極的に立てると、がんになっても落ち込むだけではなくて、もう少し楽しい将来が見えてきます。

――「災い転じて……」と考えればいいのですね。ありがとうございました。



矢野 健二 先生略歴
昭和59年高知医科大学医学部卒業。
香川医科大学助手、国立呉病院形成外科医長などを経て
平成12年7月から大阪大学助手。同助教授を経て、
平成17年より同病院教授。
平成19年より美容医療学寄附講座教授。
平成22年より乳房再生医学寄附講座教授。
日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会理事、
日本形成外科学会、
日本マイクロサージャリー学会、
日本頭蓋顎顔面外科学会、
日本乳癌学会の各評議員。