ウェビナー「第4回日本がんサポーティブケア学会学術集会」

Webで公開される学術セミナー

 

毎年、夏から秋にかけては全国各地でさまざまな学術セミナーや講演会が集中的に開催されます。医学界でもそれは同様ですが、そうしたセミナーによって私たちは最新の研究動向や知見に接する機会を持つことができます。しかし最近はセミナーの開催事情もやや様変わりしてきました。新しいトレンドをご紹介します。

■セミナーの新しい発信スタイル

 いま注目されているのはWeb(ウェブ)を通じたプレスセミナーです(ウェブとセミナーを組み合わせて「ウェビナー」とも言います)。

これはインターネットを利用してセミナーや講演会の模様をWeb上で配信するもので、希望者が視聴したいテーマを選んで運営事務局に申し込めば、開催日にセミナーがライブで配信されます。講演内容に関する質疑応答もオンラインで可能です。

これまでは開催会場に足を運ぶのが一般的でしたが、ネットへの接続環境があれば自宅あるいはオフィスでもセミナーを視聴することができるのでその必要はありません。また、遠方で開催されるので参加が難しい場合でもWebなら容易にアクセスできます。

がんや認知症、再生医療など医学・医療をめぐる研究、知見、成果はめまぐるしく変化しています。そうした動きに後れを取ることなくWebセミナーによって情報を把握できるというのは、医学関係者のみならず医療に関心のある多くの一般の人にも有益な試みと言えそうです。

 

 ■Webプレスセミナー

「第4回日本がんサポーティブケア学会学術集会」

今年の8月7日、Webを通じて第4回「日本がんサポーティブケア学会学術集会」プレスセミナーが開催されました。編集部は当該セミナーに参加する機会を得ましたので以下にご報告します。

【URLへのアクセス】

 参加を事前に登録すれば運営事務局からメールでURLが送られ、開催時刻にアクセスすればセミナーを視聴できます。

【セミナーのプログラム】

セミナーは日本がんサポーティブケア学会の田村和夫理事長の挨拶に始まり、トピックスとしてがん医療を支えるキュアとケアが紹介され、専門医による講演がプログラムに組まれました。そのうち静岡県立静岡がんセンター呼吸器内科・内藤立たて暁あき医長による「がん悪液質とはどんな病気?」の講演内容をご紹介します(要旨

【がん悪液質とは】

進行期にある多くのがん患者に急激な痩せ(体重減)と食欲不振が見られることはよく知られていますが、これが「がん悪液質」と呼ばれるものです。急に痩せるのは脂肪組織の減少によるものですが、がん悪液質では脂肪だけでなく骨格筋量も減るために筋力が低下し、その結果、歩行も困難となります。こうした症例(どんどん痩せていく、長く歩けないなど)は10世紀に著された日本最古の『医心方』にも記述されています。

悪液質の機序については少しずつ解明が進み、今日ではがんと患者間の相互反応による炎症性サイトカインの活性化が原因の一部と考えられています。

【がん悪液質がもたらすもの】

がん悪液質は進行がんでは初診時に約半数、終末期には約8割に発現する疾患と言われています。患者にとっては身体機能の低下、要介護への移行、抗がん治療に耐えられない、在院日数が長くなるなど、日常生活におけるQOL確保にも深刻な影響をもたらすことになり、その一方で家族にとっては高額な医療費負担にもつながります。

【がんによって異なる発症リスク】

 悪液質はすべての進行性がんに発症するわけではありません。比較的発症リスクが高いのは胃・食道がん、すい臓がん、頭頸部がん(舌がん、喉頭がんなど)、肺がん、大腸がんなどで、中でも発症後の生存率が低いとされているのは非小細胞肺がんです。

 将来における健康影響を検討する前向き観察研究(コホート研究:JNUQ試験)では、がん治療前の体重減少が大きいほど生存率が低下するというデータが明らかとなっています(対象:進行性肺がん患者406人)。

【薬剤開発の動き】

治療面で注目されているのがグレリン受容体作用薬のアナモレリン(塩酸塩)です。

グレリンは主に胃で産生されるペプチドホルモンで、脳の中枢を刺激して食欲を増進させることが知られていますが、アナモレリンはグレリンと同じような作用を示します。

がん悪液質患者(進行性非小細胞肺がん=172人)を対象としたアナモレリンの臨床研究では食欲の促進、除脂肪体重(骨格筋)の増加が確認されました。

アナモレリンが医薬品として承認されると、ガン悪液質に対する初めての治療薬となります。

【集学的な支持医療】

こうした一方で取り組まれているのが集学的支持医療です。

これは専門医だけでなく薬剤師や看護師、理学療法士、管理栄養士、作業療法士など多職種の協力と連携を基軸としたもので、抗がん薬治療とともに栄養療法やリハビリ、社会支援など多様な面から患者をサポートするものです。進行性がんで積極的な治療が難しい場合、病気の勢いには影響を与えずにがんの苦痛をやわらげ、より自分らしく生きられるように支持する医療であることから、この言葉が付けられました。

集学的支持医療については国内約16施設で70歳以上の進行性膵がん・非小細胞肺がん患者130人を対象に「化学療法のみ」と「栄養療法や筋トレなどの治療介入(集学的支持医療)」の2群に分け、介護が不要な生存期間はどれくらいか、「健康寿命」を延ばすことができるかどうか憲章に取り組んでいます。最終結果は2021年に報告される予定です。

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このようながん治療に関わる最新の研究内容や取り組みに関して、自宅やオフィスで接することができるのがWebプレスセミナーの最大のメリットであり、魅力と言えるでしょう。これからはこうしたセミナーのスタイルが増えていくものと思われます。

 

≪メモ≫

開催:一般社団法人 日本がんサポーティブケア学会

 同学会(JASCC)は、がんに関連した症状・兆候、がん治療に伴う有害事象に対してエビデンスに基づいた予防・支持医療の確立を目指して2015年に設立。