認知症

 

認知症をめぐる最新医療事情

 

■認知症の発症原因と症状

高齢化が進むわが国ですが、それとともに認知症となる人々も増加傾向にあります。厚生労働省によると認知症高齢者は2012年の時点で462万人、2025年には約700万人となり実に65歳以上の約20%が認知症になると推計しています。

認知症というのは病名ではありません。いろいろな原因で脳細胞が死滅したり、働きが悪くなったりして生活上の支障が出る状態を言います。かつては脳血管障害に由来するものが多かったのですが、近年は脳にアミロイドβ(ベータ)と呼ばれるタンパク質が蓄積し、それが発症を引き起こすとされるアルツハイマー病が急増しており、この傾向は欧米でも同様です。

アルツハイマー病は記憶力の低下で始まり、日付や曜日、いま居る場所がわからなくなる見当識障害、料理などの作業の要領が悪くなる実行力(機能)障害、判断力の低下などの中核症状を経て、不安やイライラなどの焦燥感、幻覚、徘徊などの周辺症状が現れるようになります。中核症状はほとんどの人に見られ、病気の進行とともに強くなりますが、周辺症状は誰にでも発現するわけではなく、生活環境や家族の接し方によって軽くなったり、強く現れたりします

 

 *「認知症とはどういうものか?」:厚生労働省のHPより

 

 ■オーダーメイド型治療プログラムの登場

最近、アルツハイマー病の治療や予防について新しい知見や研究成果が発表されました。それをご紹介します。ひとつはアミロイドβに関するものです。

アミロイドβはアルツハイマー病の発症原因のひとつとされ、それを除去することが治療に有効と思われてきましたが、除去しても症状が改善しないケースも少なくありませんでした。これに着目した米のデール・ブレデセン博士(専門は神経性疾患)は「なぜアミロイドβが脳に蓄積するのか」という方向から研究を進め、「炎症・栄養不足・(カビなどの)毒素」の脅威に直面すると脳はアミロイドβを蓄積させて自己防衛すること、しかし脅威が強力でそうした状態が長期化した時にはアミロイドβは過剰になり、それが脳神経を破壊してアルツハイマー病の発症につながることを突き止めました。逆にいえば3つの脅威を防げば認知症は予防できるということになり、それを踏まえてプレデセン博士が創唱したのが一人ひとりの現状とリスクを踏まえたリコード法です。

オーダーメイド型の治療プログラムを謳うリコード法の基本は食事指導、運動指導、

睡眠指導などの生活習慣の指導やサプリメントを使って脳の栄養不足を補い、脳を鍛えるトレーニングや神経回路再生療法などで構成されます。また、アルツハイマー病患者の脳はブドウ糖がうまく使えないため慢性的なエネルギー不足になり、それが症状の進行につながるとされているため、体内で脂肪が変化して作られるケトン体を脳へのエネルギー源として活かします。ケトン体がたくさん産生できれば脳のエネルギー不足が解消され、認知機能の改善や症状の進行を抑えることも期待できるからです。

 開発されて日が浅いせいか国内でリコード法を取り入れている病院も認定医も少数ですが、今後の成果を見守りたいと思います。

 

■プロポリスによる認知機能低下の抑制効果

もうひとつは私たちに身近な健康食品に関するものです。

ミツバチの作り出す天然物質・プロポリスをご存じの方も多いと思いますが、それに含まれる有用成分が認知症の予防にも期待できるという研究が九州大学大学院歯学研究院および中国・青海省の人民病院との共同研究によって明らかにされました。ポイントとなったのはプロポリスの持つ抗炎症作用です。

認知症は全身性の炎症が発症に深く関わっていることが臨床研究などで知られており、とくにアルツハイマー病では脳や脊髄にある免疫細胞のミクログリアが活性化することで生じる脳の炎症が神経細胞を損傷させ、アミロイドβの沈着を促して認知機能を低下させると考えられています。

すでに研究グループはプロポリスがミクログリアに依存した脳の炎症を抑制し、酸化ストレスなどによる神経細胞の障害を保護することを確認していましたが、今回の研究では中国・チベット高原に住む健常な高齢者(平均年齢72.8歳)60人を30人の群に分け、プロポリスとプラセボ(偽薬)を2年間服用してもらい、血清中のたんぱく質の一種であるサイトカインの因子を用いて炎症性(IL-1β)、抗炎症性(TGFβ1)それぞれの量を通じて全身性炎症を評価しました。

その結果、プロポリス群では炎症性のサイトカインは有意に低下し、逆に抗炎症性のものは有意に上昇して認知機能の維持あるいは低下の抑制が確認できました。一方、プラセボ群では逆に炎症性サイトカインが上昇、抗炎症性のものは低下し、認知機能の低下が見られました。

共同研究は7年間に及びましたが、天然物質であるプロポリスを用いた細胞レベルでの鋼化がヒトで実証されたことになり、研究グループは持続的なプロポリスの摂取は認知症の予防効果が期待できそうだ、と結論しています。

 

■予防医学という視点

リコード法やプロポリスによる成果はアルツハイマー病の根本的な治療につながるものとはいえませんが、注目したいのはどちらも病気になりにくい身体をつくるという予防医学の考えが生かされていることです。

予防医学の基本的な考え方は「病気になったら治す」ではなく、症状がなく発病する前の段階(未病)から自然治癒力を高めようというものです。リコード法もプロポリス摂取もそれを目指したものであり、認知症治療のための新たな視点を提供しているといえそうです。

 

【参考資料】

一般社団法人日本生活習慣病予防協会「プロポリスが認知機能の低下を抑制 7年間の国際研究で判明」(2018年4月)

デール・ブレデセン著『アルツハイマー病真実と終焉』(2018年刊・ソシム株式会社)

山田養蜂場『世界初・ブラジル産ポロポリス認知症  予防可能性』(2018年4月)