フレイル

 

健常から要介護へ移行する中間段階「フレイル」

 

 ■そもそもフレイルとは何?

フレイルという言葉を聞いて、それがどういうものかすぐに理解される人は少ないかもしれません。現段階では多くの人にとってなじみがなく、医療の現場でも十分に浸透していないのが実情のようです。

高齢になると筋力が衰えて疲れやすくなり、認知機能も低下します。誰もが避けることができない老化現象なのですが、そのまま推移すれば生活機能障害をもたらすだけでなく、要介護の必要を招くことにもなります。こうした状態をフレイルといいます。もとをたどれば海外の老年医学の分野で使用されている「Frailty(フレイルティ):虚弱や老衰、脆弱」を日本語に訳したもので、2014年5月に日本老年医学会が提唱しました。

フレイルをもたらす要因の中でも最も重視されているのが筋力の低下をもたらすサルコペニア(加齢性筋肉減弱症)、そして低栄養です。

筋肉量が減少するサルコペニアは身体能力の著しい低下を招くほか、それを実感した場合は日常生活で歩行速度が極端に遅くなったり、椅子から立ち上がるのに時間がかかったりするということが起こります。こうしたことが続くと外出を控えたり、身体を動かすことを意識的に避けるようになり、結果として身体の活動量全体を減らすことにもなって疲れやすくなります。

また、筋肉量の減少は生命活動を維持するために必要なエネルギーである基礎代謝量を低下させ、それに伴って消費エネルギー量も減ります。それは食欲の減退を生んで低栄養になりやすくなり、体重を減少させることにもなります。

しかも低栄養になると筋肉量はさらに減少し、サルコペニアが昂進するばかりか悪化させることになり、いわば負の連鎖を生んでしまいます。

健康を維持し、自立した暮らしを継続するためにはフレイルになる時期をいかにして遅らせるかが大切となります。

 

 ≪フレイルを生む悪循環(イメージ)≫

 

慢性的な低栄養(体重の減少)→病気や老化による骨格筋の変化→

サルコペニア(筋肉量の減少)→基礎代謝量の低下→消費エネルギーの低下→食欲の減退(食事摂取量の低下)→慢性的な低栄養(体重の減少)…

 

■フレイルかどうかを確認するには

実際にフレイルの症状(状態)にある人はどれくらいいるのでしょうか。

ある試算によると、介護保険で要支援と認定された人と合わせれば国内で約450万人がフレイルであると推定されています。

一方、厚生労働省の統計では要介護と認定された人は2000年の218万人から2016年には622万人に増加しました。16年間で約3倍です。この数字の中には要介護予備群であるフレイルの人も多く含まれているわけですから、増加ペースから判断して今後はより多くの人々がフレイルになると思われます。

とはいえ、自分がフレイルかどうかを判断するのは簡単ではありません。わかりやすいチェック項目として米国老年医学会が掲げている基準がありますのでご紹介します。

 

体重が減った (1年で体重が4.5kg以上、自然に減少)しばしば疲労感を感じることがある筋力(あるいは握力)が低下したと思う以前よりも歩くスピードが遅くなった身体の活動量が低くなった(身体を動かすのがつらい)と思う

 

 5項目のうち3つ以上当てはまればフレイル、1~2であればプレ・フレイル(フレイルの前段階)とされています。

『厚生労働省『介護保険事業状況報告(年報)』より

 

 

■フレイルを防ぐには

 では、フレイルを予防するにはどうすればいいのでしょうか。

 もっとも効果的なのは筋肉を維持するレジスタンス運動で、これは筋肉に負荷を与えて強くするための筋力トレーニングです。スポーツクラブなどを利用して指導者の指示に従って無理のない範囲で自転車こぎ、プールでの水中歩行(泳ぐわけではありません)もいいですし、自宅で取り組みたいのならスクワットや片足立ちなどをすることも効果的です。またウォーキングを毎日の習慣とすることも全身に適度な負荷を与えるので、筋力の低下を防ぐことになります。

食生活面では肉や魚、乳製品、大豆などの良質なたんぱく質を含む食品を積極的に摂ること、とくに体重が減った人は高たんぱく食品、ビタミン、ミネラルなどの摂取を心がけましょう。

※ただし、糖尿病や腎臓病などを患っている方、その他の病気で通院中の方は主治医からの適切な判断と指示を受けるようにしてください。

 

フレイルには加齢や低栄養などの身体面だけでなく、認知症やうつなどの精神・心理面や単身や夫婦だけの世帯の増加など社会面での関わりも要因として関わってきます。そうした複合的な問題への対応も欠かせません。

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■フレイル克服は健康長寿社会実現へのステップ

 65歳以上の高齢者を対象とした厚生労働省の調査(2013年)によると、フレイル状態の高齢者は約11.5%です。年代別では65~69歳が5.6%なのに対して80歳以上は34.9%と急増し、加齢による影響が大きいことがわかります。

今後は医療機関への受診率が高まり、要介護者認定者の割合が大きくなるという判断を踏まえ、厚生労働省も2018年から本格的にフレイル対策を開始しました。主なものは低栄養、筋力の衰えなどによる心身機能低下の防止、高齢者における生活習慣病予防、さらには重症化を防ぐ保健指導などです。

急速に高齢社会が進むわが国ですが、フレイルについての理解と認識を深め、その克服に取り組むことが健康長寿社会の実現につながると思います。