泌尿器癌について

 

患者さん第一の医療で地域を支える

 

青山輝義医師(関西電力病院泌尿器科部長)

 

関西電力病院(大阪市福島区)は、28診療科、400床を備え、大阪府がん診療拠点病院にも指定されています。大阪を代表する医療機関のひとつとして、どのように地域の医療を支えているのでしょうか。また、急速に少子高齢化が進む日本で、これからの医療はどうなっていくのでしょうか。泌尿器科部長として第一線で日々の医療に取り組んでいらっしゃる青山輝義先生に、お話をうかがいました。

 

◆地域に開かれた病院として◆

―関電病院といえば誰でも知っていますが、改めてその特色を教えてください。

青山 関電病院は、もともと関西電力社員の福利厚生から始まっていますが、今ではほとんどが地域の患者さんです。治療の内容も一般の患者さんと社員さんでまったく差はなく、優先順位もありません。関西電力の施設で事故があった場合などは病院を挙げて対応しますが、普段は地域に開かれた病院として医療に取り組んでいます。そのため、大阪市福島区や北区、中央区などの医院やクリニックと密に連携しています。100近くの施設と地域連携の取り決めを交わしており、協力しています。

 特徴として、3つの点が挙げられると思います。ひとつは、患者さんがどの病院を選ぶか、どんな治療を受けるかを決めるにあたり、ほかの病院のことも含めて正確な情報をお伝えするということ。例えば関電病院でやっていない治療法についても、「あの病院が得意ですよ」「この先生を紹介しましょう」といったように、責任を持ってお伝えしています。患者さんが本当に納得して治療を選択できるよう、公平・公正に判断できる環境が大切だと考えているからです。そのために地域の先生方とも連携を密にしていますし、患者さんから「あそこは公正な病院だ」と言っていただければ、私たちにとって勲章だと思っています。

 ふたつ目ですが、関電病院では栄養管理を非常に充実させています。管理栄養士が9人もいますので、がんでターミナルになった患者さんなども含め、きめ細かい栄養指導を行っています。予防医学として、いわゆる「未病」、つまり病気になる前に食い止めるという考え方で進めています。例えば、糖尿病や心臓疾患など、食生活や生活習慣によってなりやすい病気がありますし、がんなどでもそれがだんだん分かってきました。そういったことも、管理栄養士さんたちは大変よく勉強しています。

 もうひとつは、リハビリです。たいていの病院にリハビリ機能はありますが、ここには50人以上のリハビリ担当者がおり、心臓疾患や骨折、がんなど疾患ごとに個別のリハビリがあります。手術後の患者さんが早く日常生活に復帰するためのリハビリはもちろん、余命1カ月、2カ月といった終末期の患者さんもリハビリを行っています。終末期は安静にしておけばよいという時代もありましたが、そういった患者さんでも「立って歩きたい」という思いを持っていますので、最後の最後まで意欲を持ってもらえるよう、手を取りながら、話しかけながら、取り組んでいます。たとえ動けなくても、手をさすっているだけでも、そういうスキンシップで人とつながっているという感覚になってもらえるのです。

―新しい医療を可能にする臨床研究の機能も備えているとのことですね。

青山 臨床研究を行う部門があり、科研費の交付対象施設になっています。国の研究費を受け取ることができる病院というのは全国でも数施設しかないと思います。新しい治療を始めるにあたり、きちんと患者さんに説明して納得してもらい、臨床研究として倫理委員会を通したうえで、積極的にやっています。例えば、ある糖尿病の薬が実は腎臓にも効くらしいという場合、実際やってみましょうということで臨床研究を行い、良い結果が得られれば新しい治療法を生み出すことができます。

 ◆患者さんのQOLを大切に◆

―泌尿器科では、どのような取り組みを進めていらっしゃいますか。

青山 泌尿器科の病気は、がんにしろ結石にしろ、治療法がたくさんあります。特にがんの場合、どのような治療法を選択するかでその後の人生のすごし方に大きく影響します。例えば、標準治療として前立腺を全部取るという方法がありますが、前立腺がんはよく治りますので、その後の人生が長いのです。前立腺を取ってしまうと、尿失禁や勃起障害が生じ、射精もできなくなります。例えば40歳の方にそういう治療が適切なのか、その後の40年を今ここで決めていいのか、という問題です。

 かつて医者は病気さえ治せばよいという考え方もありましたが、今は人生90年、100年という時代ですから、その後の長い人生をどうすごすかという視点が、今後ますます必要になってくるのではないでしょうか。患者さんのQOL(生活の質)に与える影響、その後の長い人生まで考える視点を、泌尿器科の医師みんなが持つべきだと、私は思っています。患者さんとしても、「手術すれば治ります、やりましょう」と言っている医者の前で、なかなか「その後どうなるんですか」とは口に出しにくいでしょう。これからの医療として、泌尿器科の医師はそこに思いを致すべきなのです。

―近年はどんどん新しい治療が登場しています。泌尿器科ではいかがですか。

青山 私たちが向き合っている前立腺がんや膀胱がん、特に進行したがんの治療は近年めまぐるしく変わっており、1年単位で進歩しています。去年まで標準の術式だったものが今年は違うということがザラにありますから、私たちは最新のデータを用いて治療にあたっています。新しいトピックが次から次へと出てきてガイドラインなども変わっていきますので、患者さんにきちんと情報提供できるよう私たちも常に勉強しておかなければなりません。

 最近のトピックとしては、新しいお薬である「オプジーポ」が腎がん、「キイトルーダ」が膀胱がんに使えるようになりました。これは、免疫システムががんをやっつけられるようブレーキを外すお薬です。非常に高価なのが問題になっていますが、効く人には本当によく効きます。今まで手立てがなかったような患者さんが完全に治ることもあり、極めて画期的なお薬です。ただ、まったく効かない患者さんがその何倍もいますので、高額の医療費を使って、副作用に苦しみながら、このお薬を使うのか、非常に大きな課題になっています。

 これらの新しいお薬には、これまでなかったような副作用もあります。免疫システムのブレーキを外すわけですから、自己免疫疾患が誘発されるのです。自己免疫性腸炎で大変な下痢に苦しんだり、1型糖尿病になったりすることもあり、これが治らないのです。その後ずっとインシュリンやステロイドを使い続けないといけないという場合もあるようです。これだけの副作用がありますから、本当に効く患者さんだけに使うようにしなければなりません。そうでないと、大変なお金をかけてお薬を使ったのに、がんは治らず副作用だけが残った、ということになりかねません。

どういう患者さんに効くのか、私たち泌尿器科としても早急に解決しなければなりません。肺がんでは「こういう抗体が発現していたら効く」といったことがある程度判明しているのですが、泌尿器科にはそれがないので、やってみないと分からないのです。現状、医療財政に与えている負担は大きく、このままでは持続不可能です。ただ、このところ急速に研究が進んでおり、おそらく1~2年のうちに一定の結論が出るのではないかと思います。

 

◆病気を治すのは患者さん本人◆

―青山先生ご自身は、医療についてどのような信条をお持ちでしょうか。

青山 私の信条として、「病気を治すのは患者さん自身だ」というものがあります。これまでの自らの医療を振り返ってみても、そう強く感じます。上から目線で、医者が治してあげるとか、病気を取ってあげるという考え方ではいけない。病気を治すのは患者さん本人で、医療者は十分な情報と誠意を提供して選択肢を示し、全力で患者さんを支える、サポートする、ということです。ですから、患者さんから「病気を治していただいて、ありがとうございます」と言われたときは、「治したのはあたなですよ、自分で治したのですよ」と答えます。

そうでなければ医療は成功しません。「これは自分の病気だから、自分で治すんだ」という気持ちがとても大切で、それは結局すごい力になるのです。患者さん自身が医者を選び、治療法を選び、必ず治すという気持ちにならないと、治療はうまくいきません。私は25年ほど医者をやっていますが、結局は主体性のある患者さんのほうが良い結果になっているように思います。

―これまでの医師としてのお仕事で、印象に残っていることを教えてください。

 青山 実は、強く訴えたいことがあります。膀胱がんとタバコには明らかな関係があるということなのですが、ご存知ない方が多い。肺がんとタバコの関係は皆さんよく知っているのですが、膀胱がんについてはあまりご存知ないないということを、日々の診療で感じています。しかし、膀胱がんとタバコの関係ははっきり分かっていて、50%以上はタバコが原因なのです。特に女性の場合はより顕著です。

 ある患者さんは進行した膀胱がんで不幸な結果になったのですが、タバコを吸っていたことを強く悔やんでいらっしゃった姿が深く印象に残っています。ですので、私の外来に来る方には、必ず「タバコを吸っているとがんになりますよ」と言うようにしています。患者さん自身が自分の身体を守るため、「タバコをやめる」という選択肢を示さなくてはなりません。早期からの禁煙指導は、医者の務めなのです。

 タバコは吸えば吸うほど良くないのですが、膀胱がんの怖いところは喫煙をやめてから数年後に出てきたりすることです。だから、なるべく早くやめたほうがいい。タバコを吸っていると、代謝によって尿に発がん物質が出てくるようになります。それが膀胱にたまりますから、発がん物質に長時間さらされることになるのです。そういう方の膀胱をカメラで見ると、ひどく荒れています。血色が悪くなって、ずっと膀胱炎になっているような状態です。

 タバコを悔やんで亡くなっていった患者さんのことは本当によく覚えています。ですから、私は必ず「あなたのためにタバコをやめてください」と言うようにしています。これは医者の務めです。

 

◆みんなで地域の医療を支える時代◆

―これからの日本の医療について、どのような展望をお持ちですか。

青山 これから少子化そして超高齢化が進めば、どんどん医療や介護のニーズが増えていくのは明らかです。医療や介護のスタッフが人手不足となり、もう地域によっては必要な人材を置くのが難しい状態です。まだ大阪は比較的充足していますが、ちょっと地方に行くと全然医者がいないというところもあるのです。

 それぞれの地域の先生方はこれまで熱意だけでやってこられたわけですが、今後それでは持続できないことが明白です。これからの日本は、医師とコメディカル、そのほか多くの人たちが連携し、多職種が協力して地域の医療を支えなければならない時代が来ると思います。私たち医師の意識改革も必要です。現状、「これは医者しかできません」ということが多いのですが、それを看護師さん、コメディカルの方々も対応できるようにして、みんなで支えるという考え方でなければ、地域の医療は維持できない

でしょう。大阪のような都市部でも、そういう時代になるかもしれません。さらに、これからロボットやAIなども入ってくるでしょうし、多職種が協力して、みんなで効率化して日本の医療を維持するという方向になるのが望ましいと思っています。

 例えば、現在は死亡診断書を作成できるのは医師だけですが、看護師さんが最後の看取りをできるようにするといったことは、厚労省も考えているようです。そうでなければ、これから毎日どんどん人が亡くなる多死化社会になっていくなかで、自宅で看取ってほしいという患者さんの希望に応えることができません。あるいは、救急救命士が現場にかけつけて死亡診断ができるということになれば、自宅で亡くなった方について「呼吸停止の状態だから病院に運ぶ」という必要はなくなり、彼らの過重労働を改善することにもなります。遅かれ早かれ、多職種で地域の医療を支えるという考え方が必要になるでしょう。

―貴重なお話をありがとうございました。

【青山 輝義先生 略歴】  

    1993年    京都大学医学部卒業
       2003年    京都大学大学院医学研究科
       1994年    静岡市立病院
       2003年    京都桂病院
       2005年 倉敷中央病院 副部長
       2008年    関西電力病院 医長
       2015年 関西電力病院 部長

  所属学会
     日本泌尿器内視鏡外科学会
     日本女性骨盤底医学会 日本抗加齢医学会ほか

  資格
    日本泌尿器科学会指導医
    がん治療認定医
   日本泌尿器内視鏡外科技術認定医