メディアアートの自由な世界

メディアアートの自由な世界

 

株式会社 明和電気 

代表取締役社長

 土佐信道(アーティスト)

 

『メディアアート』という新しい芸術分野がある。アート+テクノロジーで表現されるメディアだ。現代において、インターネットやスマホ等おびただしい日常の変革をもたらしたテクノロジーは、アートの世界においても、従来の枠組みを打ち破り、新たな可能性を広げ続けている。コーション(!)とクエスチョン(?)が入り混じったメディアアートを生み出し続ける土佐信道さんにお話をお伺いしました。 

「明和電機」は、非常に変わった会社です、というよりアートユニットです。「明和電機」という名前の由来は、兵庫県宝塚市新明和町に、飛行艇等を作っている「新明和工業株式会社」という会社がありますが、僕の父はそこでエンジニアをしておりました。その後、父が兵庫件赤穂市に作ったのが、「明和電機」で、子供の頃から工場が遊び場だったくらい工具関係に囲まれて育ちました。大学進学の時、小さいころからの夢は絵描きになることだったので、美術をやろうと「筑波大学 芸術専門学群」に進みました。そこに、新しいテクノロジーを使って芸術を作るというコースがあったのです。コンピュータやフライスとか旋盤などの機械があり、へんてこな機械を作り始めたのが、今の「明和電機」の原点です。
 
アートと科学が融合した芸術作品を制作しているアーティストは、たとえばテオ・ヤンセン(オランダ・彫刻家)がいます。彼は、1948年オランダに生まれ、デルフト工科大学で物理学を学び、その後画家に転身しました。1990年、風力によって自力歩行する『ストランドビースト』(*1)という造形作品の制作を始めました。日本でも、展覧会がよく行われているので足を運ばれている方もいると思います。
*1 オランダ語で砂丘を意味する”STRND”と生命体を意味する”BEEST”を繋げたテオ・ヤンセン自身の造語で、テオがつくる生命体の総称です。
また、発明系アーティストである同年代の東京大学芸術学部八谷和彦准教授の作品も、やはりテクノロジーとアートの両方にまたがっています。非常に影響を受けました。彼は九州芸術工科大学出身で、宮崎俊さんの『風の谷のナウシカ』に出てくるメーヴェ(飛行体)の実機を作る「OpenSkyプロジェクト」をやっておられます。
私は声の持つ「機能性」と「呪術性」に興味を持ちまして、2003年「Seamoons(人工声帯で歌を歌う機械)」、2004年「DING(犬のように吠える機械)」、100円ショップでの材料で制作した「チワワ笛(イヌのように吠える笛)」、2009年「WHHA GOGO(人間のように笑う機械)」と、音声の仕組みにこだわった作品を作りました。声の機械がおもしろいのは、自分の頭の中の不可解な部分を「機械」というデバイスに繋げていくときに、アーティスチックな情念が垣間見えてしまうところが面白いと思います。これらの声の機械を「ボイスメカニクスシリーズ」と呼んでいます。
 

このシリーズから、明和電機のオモチャ、「オタマトーン」ができました。「オタマトーン」は音符の形をした楽器で、電子楽器の面白さと、アコースティク楽器の面白さが合体したオモチャで、世界中で大ヒットし、40万本を売りました。オモチャの生産と販売は、オモチャ会社の㈱キューブが行っています。このように明和電機は、アート作品を作りますが、それ自体の販売は行わずに、他業種と共同して大衆が求める商品を作り上げる「マスプロダクト」(販売)・「マスプロモーション」(ライブパフォーマンス)に力をそそいでいます。
 「魚器図鑑」(土佐正道・土佐信道:著)でも紹介していますが、一番最初に作ったマスプロダクトは魚型の延長コード、「魚(ナ)コード」でしょう。オスプラグとメスプラグのあるギザギザ骨の延長コードです。これも売れましたが、残念ながら昨年はデンマークの世世界的な雑貨店、「フライングタイガー」が無許可でコピー商品を売る、という事件もありました。
 

アートではありませんが、昨年の末に母がなくなり、母が生前愛用していた木製のベッドで作りました。廃棄処分をされるベッドを見て「これで仏壇が作れるのではないかとひらめき、葬儀までの2日間にアトリエで制作しました。仏壇はビジュアル、音、においの要素があり、神様のというバーチャルな世界を表現しているので、まるでIMAXのようなようであり、一種のメディアアートと考えられます。おりん(音)・線香(香り)・瞑想(幻想)の世界に迷い込む日本古来うけつがれてきた芸術作品と感じます。仏壇を作ったことについて、母も天国で笑ってくれていると思っています。

 

今日のテーマである「メディアアートのこれから」ですが、僕は新しいアートの可能性として「マスプロアート」を考えています。また、機械と不可解が融合した「ナンセンスマシーン」をこれからも作っていきたいです。
今回、市民の寄付で関西の芸術・文化を支援しているアーツサポート関西と、大阪梅田北フロントのナレッジキャピタルに拠点を置く情報通信教育VisLab Osakaが手を組み、メディアアートを支援するプロジェクトに取り組んでいくことになりましたので、新しい感覚で新しい世界が広がっていくことに期待しています。

 【明和電気】

土佐信道(兵庫県赤穂市・1967年生れ)プロデュースによる芸術ユニット。青い作業服を着用し作品を「製品」、ライブを「製品でデモストレーション」と呼ぶなど、日本の高度成長を支えた中小企業のスタイルで、様々なナンセンスマシーンを開発しライブや展覧会など、国内のみならず広く海外でも発表。音符の形の「オタマトーン」などの商品開発も行う。2016年1月には中国上海の美術館McaMで初の大規模展覧会を成功させ、同年6月には大阪で20年ぶりとなる展覧会を開催した。今年デビュー25周年を迎える。