北野病院

 

「医学研究所」を持つ総合病院として

地域医療の中核を担い、先進医療を実践。

 

北野病院の歴史は、大阪の実業家・田附政次郎氏の医学に関する総合研究や京都帝国大学(現京都大学)医学部における学術研究を助成する目的でスタートしました。寄付金の提供及び財団法人田附興風会の設立を経て、それは1928年に遡ります。以来、医学の総合研究を推し進めながら、長年にわたり高度先進医療の基幹病院として、質の高い医療を提供し続けています。今回は北野病院の吉村長久病院長に、最近の取り組みなどについて伺いました。

(公益財団法人田附興風会 医学研究所北野病院)吉村 長久 病院長

 

 12の研究部門を医学研究支援センター、

新棟でバックアップ

―――北野病院は、研究機関としての歴史が長いですね。

はい、約90年の歴史があります。公益財団法人田附興風会の事業目的は「医学に関する総合研究を通じて、学術、科学技術、文化の振興・発展に寄与する」ことであり、医学研究所として北野病院を運営し、臨床研究・基礎研究を行っています。北野病院は先進的な総合病院であるとともに、研究機関としてのイメージが浸透しているのは当然で、医学研究所には現在12の研究部門と治験管理センターがあり、北野病院の各診療科や各部署とも密接な関係を築いています。

 

【12の研究部門】

①癌研究部門 ②心・血管・肺・血液障害研究部門 

③代謝・消化栄養・体液平衡障害研究部門④免疫・アレルギー・感染・病理研究部門 

⑤精神・神経・感覚・運動器障害研究部門⑥発生・再生・発達障害研究部門 

⑦生体画像・医療機器学研究部門⑧予防・医療疫学・検査医学研究部門 

⑨薬学・生理学研究部門⑩看護学研究部門⑪医療情報管理・経営企画研究部門 

⑫東西医学研究部門

 

―――大阪でもトップクラスの陣容を誇る北野病院が医学研究所を有していることは、大きな強みですね。

 そうですね。医学研究所では非常に豊富な臨床実例に基づく臨床研究が活発に行われています。基礎研究では、そうした臨床から得られた新しい発想や仮説を検証し、より発展させるべく医学研究所を中心に動物実験や遺伝子研究が日夜行われています。研究に携わっているのは、普段は患者さまを診察・治療している当院の医師や各部署の職員たちです。患者さまのために日夜業務に就く中で、兼任で医学研究所の所員として研究に取り組んでいる者も多く、それぞれが“科学者の視点を持つ”ということを、とても大切に考えています。昨年、研究者がより研究に没頭できる環境づくりを推し進めるべく、新たに医学研究支援センターを整備しました。臨床研究のデザインやモニタリングを担当する品質管理室、研究データの管理を行うデータ管理室、研究員の補佐や業務コントロールを担当する研究補助員室など5室で構成されています。

―――来年、新棟を建設されるそうですね。

はい、2018年に建築を開始する予定です。規模は8階建てで、約8,000~9,000㎡内に研究所(ウェット系・ドライ系)や動物関連の実験スペースなども設置し、放射線治療なども完備していく予定です。研究に関しては、より新しいものに取り組みやすい環境にしたいと考えています。

 年間9,000台以上の救急搬送を受け入れ、

幅広い病態への診療を実施

―――救急診療は1日にどのくらいありますか?また、地域連携という点で課題と感じておられることは?

救急車の受け入れは年間約9,000~10,000台と非常に多く、内科系・外科系の当直、神経センターや循環器内科、小児科、産婦人科、麻酔科など必要な診療科の医師15~20人が救急に対処できるように体制を取っています。当院は医師の数が多く、医学研究所も含めると300人以上になります。病床数でみれば医師数に恵まれていると言えますね。大阪市北区の繁華街にも近い立地ですから、深夜でもいろんな方が運び込まれてきますが、ほぼ受け入れています。担当医たちも基本的に断らない姿勢を貫いています。入院する患者さま1日平均約50数人のうち、2~3人に1人は予定外入院で、そのうち半分は救急患者さまが占めています。

 また、地域連携という部分では後方病院の不足が課題だと感じています。大阪市北区の病院はほとんどが急性期病院ですから、その後の治療を任せられる体制が構築されると、患者さまも安心できると思います。

 

―――小児科の救急体制も充実していますね。

 小児科に関しては、行政側からも頼りにされているという実感があります。来院されるお子様の数もかなり多いので、私たちも当院がこの地域周辺の小児科を支えていると自負しています。当院の小児救急は、一般の成人救急とは別に体制を組んでおり、小児科の当直医は多い時で3~4人が待機しています。大阪市の小児救急は、休日や夜間に対応可能な病院が持ちまわりで担当する輪番制をとっているので、その担当日は必ず4人が当直になります。大人に比べ入院期間は短いですが、地域の方々から見れば当院は子どもの受診が多い病院という印象があるようですね。また、当院は産婦人科に来院される方も多いのが特徴です。現在の年間分娩数は約700件、今後はもっと増えていくでしょう。

 

―――歯科医療を復活させるのですか?

 はい、再開したいと考えています。口腔ケアは入院患者様の高齢化や予防医療の観点から考えても、極めて重要です。現在は非常勤で開業医の先生に来ていただいていますが、やはり常勤が望ましいですからね。

 「丁寧な診療」を基本に、サポート体制を充実。

「入退院支援センター」が本格稼働

―――先生ご自身が、医師として常に心掛けていることは?

 これはもう、「丁寧に診る」ということに尽きますね。最善の医療を、いかに提供し続けられるかということです。当院は急性期病院ですが、急性期ではない患者さまも多く入院されています。このように現場で割り切れない現実があることを、厚生労働省も理解し始めてきています。高齢の患者さまの場合、完全回復が難しいケースも多々ありますから、今後そういった患者さまに対しては、介護を含めた未来像も今後は急性期病院として真剣に考えていかなければならないと思っています。

―――今後、病院として注力していくことは?

 「入退院支援センター」という患者さまサポートを行うワンストップセンターの設置を、2018年夏を目標に進めています。当院の1階に設け、入退院時のサポートだけでなく、外来の初診で来ていただいた時から、入院、・退院するまではもちろん、先程申し上げた介護関係のご相談なども受け付けて連携し、より安心してスムーズに病院を利用していただこうという試みです。こうしたシステムはいろんな病院が取り組んでいますが、ここまで徹底して行おうとしている病院は少ないと思います。当院は予定入院の患者さまだけでも毎日平均30~40人おられますので、まずはそういった方々を中心に、丁寧にケアしていく姿勢を大切にしていこうと思っています。また、現在の利用は手術を受ける予定の方が主ですが、今後はさらに対象を広げて、より多くの方々に入退院支援センターを利用して頂けるようにしたいですね。

―――交通アクセスにも恵まれていますから、ますます来院される方が増えそうですね。本日はありがとうございました。

 

 【吉村長久病院長の経歴】

京都大学大学院医学研究科を修了後、アメリカのマウントサイナイ医科大学へ留学。ゲノム解析、幹細胞生物学を利用した日本人加齢黄斑変性の発症と進行機序の解明などを含め、長らく眼科学における医学研究を牽引。京都大学医学部眼科学講師、大津赤十字病院眼科部長、信州大学医学部眼科学教授などを経て、2004年に母校である京都大学大学院医学研究科眼科学の教授に就任。2016年より京都大学と関連の深い北野病院にて病院長を務める。