日本赤十字社 和歌山医療センター

 医療の“境界領域”を強化し、

迅速な救急・災害医療を提供。

 

明治38年の設立以来、100年以上にわたり地域の基幹病院として先駆的な高度医療を推進。赤十字の医療機関としての責務を果たしている和歌山医療センター。さらなる高度救命救急センターの充実と、国内外で展開する救護・救援活動などについて、日本赤十字社和歌山医療センター 平岡真寛 院長にお話を伺いました。

 

日本赤十字社 和歌山医療センター 平岡 眞寛 院長  

 

 医療の原点「救急」と、

 高度医療の対応力を強化            

 

―――明治38年開設の和歌山最古の総合病院であり、和歌山県における医療の約3分の1を担う中核病院として、地域に欠かせない医療インフラの要となっていますね。

 

 そうですね。当センターの1日あたりの外来患者さまは日赤病院の中でも1~2番目に多く、2千人を超えます。地域の現状を申し上げると、近畿圏の中でも和歌山県は過疎の問題に直面しており、さながら日本の医療の将来を象徴していると言えなくもありません。ですから、たとえ医療が受けにくい場所でも、当センターがその役割をしっかり担っていくことが大切だと考えています。36の診療、47の外来を設けて明確に機能分担しているのも、病院ごとに指定できる状況にないからです。特に急性期医療についてはすべてに対処する必要がありますからね。

 

―――2年前からは緊急性の高い重症患者を優先しておられますね?

 はい、やはり本来救急で対応すべき重症の患者さまを優先的に受け入れることに踏み切りました。以前と違い、最近は比較的元気な方が救急車に乗って来られるケースが日常化し、一刻一秒を争う患者さまの救命に支障が生じることが問題だと感じていたからです。したがって、泥酔者や常習的な薬物中毒者などはお断りしています。医師に余計な心労をかけず、経過を見ても救急で入院される方の数は減少していないので、うまく機能しているのではないでしょうか。現在は、和歌山市消防局の救急ワークステーションを院内に設置し、365日24時間体制でのドクターカーの出動を可能にしています。私たちにとって、最優先で行うべき医療の原点は、やはり救急です。救急対応の専任者不足の問題にも向き合い、人材を確保して、今日の体制を整えました。私は院長就任2年目になりますが、病院全体で「救急を支えよう」という意識がしっかり根付いるのを実感しています。

国際医療救援拠点病院として、

国内外で積極的に活動           

 

―――日本赤十字社ならではの国際救援活動や人道支援にも力を入れておられますが、具体的な活動を地域の方々はよくご存知なのですか? 

 この取り組みは日本赤十字社のミッションであり、国際医療救援に関しては、大規模な災害や紛争で救援を必要とする世界中の各地域(ハイチ、ネパール、ギリシャ、パキスタン、南スーダン等)に医師・看護師を派遣していますから、患者さまや地域の方々にも情報が浸透しています。私たちは国際規模で広がる感染症対策にも強く、エボラ出血熱に詳しい医師もいるため、国際機関からの要請があれば、いつなんどきでも現地に出向き貢献活動を行っています。当センターは日本赤十字社の中でも「国際医療救援拠点病院」に指定されるほどの実績があり、被災者への医療救援のみならず、その後の復興支援、保健衛生活動など幅広く展開しています。

また、国内救護に関しては医師、助産師、看護師、薬剤師、事務職員で構成する常備救護班を編成しており、各地の災害被災地へいつでも出動できる態勢を整えています。阪神・淡路大震災、東日本大震災の時はもちろん、昨年の熊本地震では伸べ70人を派遣しました。患者さまから「赤い救護服がまたテレビに映っていたね」「先生が帰ってくるまで不摂生せずに頑張るから」などと、応援のお声掛けをいただくことも多く、そのご理解ある態度にいつも感謝しています。報道機関からも、大きな災害があると「いつ出発ですか」と尋ねられます。当センターは、県内や近隣府県から年間約3万人の救急患者を受け入れる全国最大規模の高度救命救急センターでもありますから、複数の診療領域にわたる重篤な救急患者の受け入れや、初期及び第二次救急病院からの救急搬送の受け入れを積極的に行っています。

 さらに注力していきたい

高度医療でのがん治療     

 

―――最先端の医療機器も積極的に導入し、先進医療を進めておられますね。

これまで不可能だった視野の確保や、細やかな動きが可能になった手術支援ロボット「ダ・ヴィンチSi」などはフル活用しています。とにかく優れた機器類で必要なものは積極的に導入し、その分しっかりと駆使していこうというのが私たちのスタンス。前立腺がんの腹腔鏡視下手術以外に、腎がん、胃がんなどにも使用機会が増えています。傷口が小さく、出血量も少なく、身体への負担が軽減されて回復も早くなるので、患者さまのメリットは大きいです。また、産婦人科でも陣痛→分娩→回復までを同室で行えるLDRの導入など、良いものはどんどん採用しています。

 

―――先生のご専門である放射線治療の分野について、課題はありますか?   がん治療に関しては身体のさまざまな部分に関係してきますから、まず病院組織としては、今まで以上に横断的な対応を行っていきたいですね。特にがんに対する取り組みで言えば、医師のみで対処できる範囲は限られているので、介護ケア等も含め、チーム医療をさらにレベルアップして医療の境界領域を強化するのが課題です。また、昔は放射線治療よりも外科手術の方が根治率が高いとされてきましたが、現在は技術が進化して、次第にその差が解消されつつあります。治癒率約80%の外科手術に匹敵するような放射線治療法も生まれてきており、患者さまにとっては選択の幅が広がっていると言えます。当センターとしては、がん拠点病院として保険で認められる高度な放射線治療を提供すべく、定位放射線治療(SBRT)、強度変調放射線治療(IMRT)の実施率を高めていくことを目標にしています。もちろん、がん検診における早期発見も重要なので、都心のような検診に特化した病院を代替する医療機関としての対応も実施。また、緩和ケアにも今後注力すべく、さらに病棟の拡大を予定しています。さらには、地域の640以上のかかりつけ医(診療所・開業医院)とも連携し、すべて当センターで完結できるトータル医療を目指しています。

 

 患者さまとスタッフを、

最適の環境でサポート

 

―――院内にせせらぎのある庭や美容院、図書館、花屋さん、カフェ、焼きたてのパンも販売するコンビニがある…一般的な病院のイメージと一線を画しておられますね。  第一に患者さまの快適性、利便性を第一に考えています。明るく、雰囲気のいい生活空間は人に活力を与えます。一般的な病院の印象を変えることで、少しでも元気になっていただきたいという想いですね。手術・入院後の生活はどうなるのだろう?と疑問や不安を持たれる方に安心していただくためのサポートセンターも1階に設けました。また、スタッフの働きやすい環境づくりのため、特別に従業員用の託児所を設置しています。安心して業務に励みながら、地域の健康に寄与していく―――今後も地域医療の向上を目指して、真摯に取り組んでいきます。

 

≪平岡真寛院長 略歴≫

 

昭和52年京都大学医学部卒業。米国スタンフォード大学放射線腫瘍科客員助教授等を経て、京都大学大学院医学研究科

放射線医学講座・腫瘍放射線学(現:放射線医学講座・放射線腫瘍学・画像応用治療学)教授に。京都大学医学部附属病院がんセンター長(初代)も務めた。平成28年4月より日本赤十字社 和歌山医療センター院長に就任。現在、日本がん治療認定医機構理事長、厚生労働省がん対策推進協議会専門委員。世界初の国産「追尾照射を可能とした次世代型四次元放射線治療装置」を独自開発した、がん放射線治療の第一人者。信条は「医療人として大切な2つの資質(サイエンス:知識・技術の探求)とサービス(奉仕の精神)を忘れないこと」。