神戸市民病院機構

 

神戸市民病院機構が目指す               

 

理想の先進医療と医療体制

 

高齢化社会が加速する中、高度先進医療や予防医療等をいかに地域の医療連携システムの中に組み込んでいくかが求められています。そんな状況下、地域の事情に配慮した機動力・柔軟性・透明性を高めながら、患者サービス向上を目指し、神戸エリアの連携を強化した医療体制を、今後の地域医療のモデルケースとして実現すべく取り組んでいるのが、地方独立行政法人 神戸市民病院機構です。現在推進中の中期計画や、就任後の思いなどについて、橋本理事長に伺いました。            地方独立行政法人 神戸市民病院機構       橋本 信夫 理事長

 法人移行9年目を迎えた神戸市民病院機構

 ------地方独立行政法人 神戸市民病院機構は、現在、3病院を統括・運営されておられます。全国的に見てもここまで包括的な体制は珍しいと思いますが、改めて機構発足の経緯や利点についてお聞かせください。

 

市民病院から地方独立行政法人へ移行することが、『より機動性・柔軟性・透明性を発揮することができ、今後の市民病院の運営形態としては望ましい』という検証結果に基づき、当機構は2009年4月に誕生。現在、法人移行後9年目を迎えています。法人化の具体的なメリットとしては、患者様のニーズに応じて、診療時間や院内組織などに柔軟に変更を加えられること、そして中期計画に基づく機動的な運営が可能なことにあります。また、優秀な医療従事者を採用・育成することができ、経営・業務改善の透明性の確保も可能になります。さらに、治療用に最新機種を一刻も早く導入すべき事態が生じた場合でも、現場判断で国や市の承認を待たずに最適な判断で実行に移すことができます。病院を取り巻く環境が厳しさを増す中、より一層の患者サービスの向上と経営の効率化を図りながら、市民に適切な医療を提供していくことを目指しています。そうした考えのもと、神戸市の基幹病院である「神戸市立医療センター中央市民病院」、市街地西部の中核病院となる「神戸市立医療センター西市民病院」に加え、今年4月からは一般財団法人神戸市地域医療振興財団が運営していた「神戸市立西神戸医療センター」も移管を済ませ、現在当機構は3病院を管轄・運営しています。

 

-------公益財団法人先端医療振興財団が運営する「先端医療センター病院」を「神戸市立医療センター中央市民病院」に統合する予定もありますね?

 

はい。「神戸市立医療センター中央市民病院」を、より充実した診療と関連する臨床研究のため、公益財団法人先端医療振興財団が運営する「先端医療センター病院」と統合します。また、今年中に「神戸アイセンター病院」を開院する予定です。重篤な眼疾患の治療から社会生活への復帰までをサポートするワンストップセンターとしての役割を果たすことになります。

 

3病院それぞれの役割を明確にして、 次代の「理想の医療」のモデルケースに

-------現在、3病院の位置付けはどのようになっているのでしょうか? 規模の大小による差異化ではなく、それぞれに明確な役割を持たせることで、10年後、20年後の、これからの地域医療のあるべき姿=理想の形を目指しています。具体的には―――‐

■神戸市立医療センター中央市民病院

   神戸エリア全域における基幹病院としての役割を担っています。第一には、初期救急医療から3次救急医療まで“断らない救急”の実践、つまり救命救急センターとしての機能を果たす病院を目指します。そして第二には、感染症指定医療機関として、より高度で専門的な医療を提供していきます。「神戸市立医療センター中央市民病院」の救命救急センターは、厚生労働省が発表した『全国救命救急センター評価』において、全国279施設中、3年連続で第1位に選ばれた実績もあります(平成26・27・28年度)。年間に受け入れた重篤患者数、消防機関からの搬送受入要請対応、専従医師数、専従医師に占める救急科専門医師数、休日及び夜間勤務の適正化など、多くの項目で評価されたことは嬉しい限りです。次代の公的病院が目指す理想的なモデルケースであり続けるよう、今後もしっかり対応していきます。

■神戸市立医療センター西市民病院

 年間を通じての救急医療に加え、長田区を中心としたエリアの高齢者医療・介護の架け橋となる医療機関を目指しています。神戸市と一体になり、“高水準の標準的医療”の提供をテーマに、今後、認知症、喫煙による重度の肺疾患など、将来的に今後増加が予測され、市民が直面していく多くの課題に対し、“標準的な医療コスト”で最善の予防・治療を実施できるモデルケースとしての実績を重ねていきます。

■神戸市立西神戸医療センター

 居住人口が多いニュータウンエリアも念頭に置いて、今後の医療体制をどう改善していくかという課題にも取り組んでいきます。高度成長期に誕生した全国のニュータウンそれぞれの地域で今後生じていく高齢化とそれに伴う患者数の増加を見越した医療のあり方、受け入れシステムなどについて、地域の医院と連携しながら次代への指針を示せるようにしていきます。

 

神戸市は人工島ポートアイランドを中心に、産官学連携による医療関連産業の集積を図る「神戸医療産業都市」を推進しています。当機構の病院群や多くの医療関連企業が、医薬品や医療機器だけでなく、さまざまな治療や予防、介護などのテーマで、基礎の研究や臨床応用などに取り組んでいる、日本最大のバイオメディカルクラスターとなっているのです。当機構は、こうした先進・高度医療の最前線となるまたとない環境の中で、地域に密着した協力医療機関・医院などと密接に連携し、神戸市民に提供するサービスの向上、業務の質の向上に取り組んでいます。救急医療はもちろん、小児・周産期医療、災害及び感染症医療、5疾患(がん・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病・精神疾患)への対応のほか、チーム医療、臨床研究のレベルも高め、安全で質の高い医療で、これからも地域社会に貢献していきます。

コミュニケーション力を高めて、 ホスピタリティの向上につなげる

-------第2期中期計画では、人材育成も重点項目になっていますね?

    人材育成に関しては、高い専門性と協調性を持ちながら、ホスピタリティの心を兼ね備えた職員の育成に注力しています。どんな組織でもそうですが、病院や医療機関も大きくなると組織が縦割りになりがちで、風通しが悪くなり意思の疎通がスムーズではなくなってきます。そうした風土では患者さんにとって真に優しい医療環境の提供はできませんし、また、地域の医療機関、福祉施設、市民病院等との連携・機能分担もままならず、結果的に災害時の医療にも大きく影響を及ぼすことになります。ですから、そういった事態に陥る前に組織として硬直状態になることを阻止し、人的資源が有効に機能するよう、基本的なことですが、コミュニケーションの活発化をもっと推し進めようと考えています。実は理事長に就任後、すぐに各病院をアポイントメントなしで訪問し、受付や待合室などを実際に回りました。患者さん側・病院側両方の視点から感じたことを、今後の教育や運営に活かしていこうと思ったからです。医療は医師の指示が基本ですが、現場ではマニュアルにない局面が多々あります。そこで私が見たものは、個人それぞれが最適と考える方法を素早く判断し、的確にスタッフ同士で息の合った連係で対処している姿でした。本当に安心しました。組織内の良好な意思疎通は、チーム医療にも通じるものです。こうした「ガバナンスがしっかりしている」部分は数値化が難しいデータではありますが、私たち関係者全員がコミュニケーション力を強化し、実践しなくてはなりません。若い医師たちから聞いた「医療現場をより良く改善するためには、何をすべきか」という意見等も、今後は積極的に経営にフィードバックしていきます。

-------タクシー運転手の方が来院時の実感として、「多忙な中、医師も看護師も対応が丁寧」と語っておられたそうですね。

 ええ、乗車時に私が病院関係者とは知らずに。来院時の印象を話されていました。有難いと思うと同時に、身が引き締まる思いでしたね。そして、神戸市と協力して医療・保健・福祉の連携を図り、運営する3病院及びその他の医療機関を含めた包括的な連携等も推進し、退院された患者さんの支援も継続して行っていきます。質の高い医療を実践する医療クラスターとして、これからも市民の方々の期待に応えていきます。

【橋本 信夫理事長の経歴 】

京都大学医学部卒業後、京都大学医学部附属病院脳神経外科講師に。その後、国立循環器センター特殊病棟部長、京都大学大学院医学研究科脳病態生理学講座 脳神経外科教授、国立循環器病センター総長、独立行政法人国立循環器病研究センター理事長・総長、国立研究開発法人国立循環器病研究センター理事長・名誉総長などを歴任。平成29年より現職。平成17年世界脳神経外科学会連合Scoville賞など受賞多数。