「歯と口の健康週間」に寄せて

いつまでも健やかな人生を
送るために欠かせない「歯の健康」

 

80歳で20本の歯を残す「8020運動」の推進で、毎日の食を支える歯の健康への関心が高まっています。しかし、一方で30歳以上の約8割以上が罹患していると言われる歯周病(歯肉炎・歯周炎)、虫歯に悩む人もまだ多いのが現状です。「歯と口の健康週間」(6月4日~10日)を前に、歯科医療の現場で様々な治療に取り組んでおられる医療法人大樹会 春次賢太朗理事長、OBPデンタルクリニック大阪中央インプラントセンター 今上英樹総院長に、最先端の歯科治療や歯周病への注意喚起などについてお聞きしました。

全身疾患につながる歯周病は「生活習慣病」

―――現在、歯周病に対する正しい認識はどの程度浸透しているとお考えですか?


歯周病が全身に関与するとして関心が高まってきたのは、ここ10年くらいではないでしょうか。歯周病は今や糖尿病とともに代表的な生活習慣病です。歯周病の影響は口腔内にとどまらず糖尿病、脳梗塞、心筋梗塞、誤嚥性肺炎、動脈硬化、心内膜炎、さらに女性の場合は早産や低出生体重児の出産につながる可能性があるなど、様々な影響を及ぼす可能性があります。歯周病を全身の病気と捉え適切な治療を行えば自身の健康を守れる、ということを認識してほしいですね。 
 歯周病菌は腫れた歯肉から容易に血管内に入り、原因因子となる内毒素(歯周病関連細菌の細胞壁に含まれ、細菌が死滅しても残る毒素)が身体に悪影響を及ぼします。糖尿病合併症につながるケースは、それが血糖値を下げるインシュリンの働きを阻害してしまうためです。そうした患者様には抗菌薬を使った歯周病治療を行うことで症状は改善されます。歯周病も生活習慣病だという認識を持ち、予防することが望ましいです。
 また、女性の場合は妊娠するとエストロゲンという女性ホルモンの影響で特定の歯周病菌の増殖を促すため、妊娠中期から後期にかけて妊娠性歯肉炎になることが多く、注意が必要です。
                              
―――喫煙も歯周病悪化の要因になりますか?
喫煙者は非喫煙者に比べて歯周病にかかりやすい傾向にあります。禁煙すると約4割も歯周病にかかりにくくなるというデータもあります。歯にヤニがつくとザラつくのでプラーク(歯垢)が付着しやすくなり、歯石も生じやすい口内環境になるので喫煙はおすすめできません。喫煙者に重度の歯周病患者が多いのも事実です。
また、タバコの煙に含まれるニコチンは血管を収縮させる神経毒のようなものですから、身体の免疫力は低下し、アレルギー症状が出やすくなったり、傷を修復する繊維芽細胞の働きも抑制してしまいます。歯をしっかり支えられる血行の良い健康な歯茎のためにも、禁煙が望ましいですね。
                               
3次元画像、超音波、レーザーなどを駆使して最先端治療を提供
―――プラークは基本的に自分で除去できるものなのでしょうか?
丁寧にブラッシングをしても、すべてを除去することは不可能です。歯周ポケットの根元深くに入り込んでいるプラークは自分で除去しきれないので、定期検診を兼ねて歯科医院でスケーリングを行ってもらうのがいいでしょう。口腔内に残ったプラークは、うがいなどでは取り除けないバイオフィルムというヌルヌルの膜に変化し、細菌群が定着してしまいます。そうした事態を避けるためにも歯科医などの指導を受けて、普段から正しいブラッシングを行うプラークコントロールが重要になります。
磨き残し部分のプラークやバイオフィルム内にある細菌が慢性的に漏れ出て、唾液から歯茎の隙間や肺(誤嚥)へ、腫れた歯茎から血液に入り全身へ、と疾患を引き起こす要因をつくってしまいますから、くれぐれも歯周病菌がもたらす影響や予防・対処法への理解を深めておくべきです。

 

―――インプラント(人工歯根)の治療技術はどのように進化していますか?
そうですね。患者様の顎骨が土台として不十分な場合に行う自家骨移植や、ブロック骨移植などの技術は格段に進歩しています。特に目の下(鼻の奥)にある上顎の骨には上顎洞というくぼみがあり、インプラント治療ではそこに必要な骨を移植する必要性が生じます。
こうした場合に効果を発揮するのが歯科用CTの3次元立体画像です。術前・術後の骨の構造(厚みや形状)、粘膜の状態なども確認しやすいので早い診断と治療の安全性が増し、精度の高い治療を行うことが可能になります。その時その時の一過性の処置では、早い時期に不具合が生じて再治療が必要になるケースも少なくありません。歯科医は常に治療履歴と照合しながら、可能な限り長期にわたり安定維持できる治療を追求すべきだと考えています。
                            
―――現在の虫歯治療にについてお聞かせください。     
温存治療が主流になっています。虫歯を削る場合、歯のエナメル質の下にある象牙質には神経や血管が通っているため、傷つけないように細心の注意が必要です。タービンやドリルで削る場合は、どうしても少し健康な部分を削ってしまいますが、超音波による振動を利用した超音波治療器を使えば、健康な歯をほとんど削らず該当箇所を除去できます。超音波治療器は骨の周囲にある神経や血管、粘膜などにダメージを与えないという利点もあり、インプラント治療の際にもよく使用されます。タービン使用時のようなキーンという嫌な音も発生しないので、患者様からは好評ですね。(ただし部位が限局的な場合)
また、レーザー治療は歯ブラシが届きにくい部分に短時間光を照射するだけなので、痛みをあまり感じません。切断面を焼き切るので、治療後に虫歯ができにくいというメリットがあります。これも虫歯の予防や歯周病治療に適しているといえますね。
認可はまだおりておりませんが保険外の治療として虫歯を薬で溶解する(カリソルブ)、歯石を薬で溶解する(ペリソルブ)等の治療方法もあります。
いずれにせよ、虫歯ができたから歯を適度に削る、痛いから神経を抜く、そして状態が酷くなって最終的に抜歯、という流れに沿った治療を行う時代ではなくなりました。高齢社会に突入した今、むしろ歯周病対策などで「歯茎をいかに健康に保つか」という点が重要でしょう。
                          

セカンドオピニオンが当たり前の時代に

―――患者様からの要望には、どのように対応されていますか?    
治療方法は、患者様それぞれの生活スタイルや生き方にも関わってきます。短期間治療を望まれる方、じっくり腰を据えて治される方、とにかく痛みを感じない方法でとおっしゃる方など、一人ひとりのご要望にお応えしています。治療方針や費用面も含めて、もし不安を感じたり、別の方法があるかもしれないと思ったら、一度別の病院でご相談されることをおすすめします。
セカンドオピニオンを求めることは特別なことではなく、患者様の正当な権利です。精神面の安定のためにも、遠慮しないでご自分が納得されるまで確認してほしいです。もちろん、他の医師の考えを聞いた後、再度来院されても大丈夫ですので、気軽に担当医に申し出てほしいですね。

 

For the patientを基本に、
永続的に機能するインプラント治療を。

 

「1口腔1単位」の長期視点でQOLを向上
現在のインプラント治療は、外科的主導、つまり骨量の充分なところを探してインプラントの埋め込みを考えるのではありません。綿密な検査で定めた理想的な治療のゴールに向かって、必要な骨がなければ骨を造成するとか、インプラントの埋入方向や位置、本数などを決めて最終的な構造をつくっていくいわゆる補綴主導的なトップダウントリートメントという考え方が重要になっています。
私たちがめざしている治療は専門用語で言うところのLongevity(ロンジェビティー:永続)です。長い時間と高い費用をかけて行ったインプラントがわずか数年で再治療しなくても済むように、最適・最善の治療を施し、患者様の「生活の質」を向上させることが重要なのです。当院では当初から治療を各部位で考えるのではなく、「1口腔1単位」と捉えて15年、20年という長いスパンでインプラントの機能が維持できる治療を標準と考えています。

最適治療で患者様の不安を解消
インプラントの埋め込みに必要になる顎の骨を増やす場合、自分の骨を使う自家骨移植と、人工材料などを使う人工骨移植があります。自家骨は主に親知らずのある所や、顎の先端部から切削しますが、今は人工骨を希望される方が増えてきました。
また、血液は遠心分離器にかけると、骨形成能力の高い細胞を含有する結晶フィブリンが抽出できるので、これを粉砕した自家骨や人工骨と混ぜて、より強固な骨をつくることも可能になりました。つまり、インプラントを埋入するポジションに骨量が不足していてもそうした最新技術を用いることで骨の造成期間(治療期間)が短縮できるわけです。治療箇所に自家骨の不足部分があればそれを補う形で埋めたり、囲んだり、ネジ留めする必要があるブロック骨移植などにはとても有効です。
当院ではインプラント手術の際に点滴の形で投薬する静脈内鎮静麻酔を、23年前から麻酔の専門医と協力して行っています。患者様は眠っている間に治療を終えることができるので、手術中の痛みや精神的負担がかなり軽減されます。いわゆる術後疼痛を最小限に抑えるMIミニマリーインベーシブを目指しています。
私たちの行う治療はFor the patient(フォーザペイシェント:患者様のために)という言葉に集約されています。麻酔が切れても痛みや腫れが極力出ないように、短期間でエステティックに、あくまでも患者主導的で患者目線で治療を行い、患者満足度100%という配慮を徹底し、これからもスタッフ全員で患者様のQOL向上に寄与していきます。



春次賢太朗理事長
1980年 福岡歯科大学卒業後、大阪府歯科医師会会長 奥野歯科勤務を経て春次歯科を開業。1996年 医療法人歯友会設立を経て、医療法人大樹会理事長に就任。社団法人日本歯科先端技術研究所副会長、社団法人日本歯科先端技術研究所大阪名誉会長ほか多くの役職を兼務。大阪歯科大学歯学博士。

プライベート保護に対応する診察室

 

今上英樹総院長
1991年 明海大学歯学部卒業。南 清和先生に師事。1994年 SJCDアドバンスコース、2008年 ハーバード大学歯学部インプラントマネージメントコースを修了。OBPデンタルクリニック大阪中央インプラントセンターに勤務。2014年 総院長に就任。日本口腔インプラント学会専修医・専門医。国際インプラント学会(IDIA)専門医・指導医。