第1回 腹腔鏡による胃がンの手術

 

腹腔鏡手術は確立、今後の課題は、すべての医師が使いこなせる、普及とトレーニング

瀧口修司先生〈大阪大学医学部付属病院消化器外科講師〉

腹腔鏡による胃がんの手術は、初期胃がんからさらに進行した胃がんに至るまで、患者さんの体に負担の少ない手術として、ますます浸透しています。しかし開腹手術から腹腔鏡手術への過渡期でもあるため、医療機関や医師によっては、治療に違いがあります。腹腔鏡による胃がん手術のエキスパートとして知られる瀧口修司先生にうかがいました。

デジタル機器の進歩とともに

――まず「腹腔鏡手術」と、「内視鏡手術」とがありますが、どう違うのですか。

瀧口 体の中には、消化器の入っている「腹腔」、心臓や肺の入っている「胸腔」などがあります。「腹腔鏡手術」というのは、腹腔の中にある胃や大腸の治療などをする場合に、腹部を大きく開腹して臓器に到達するのでなく、腹部に4から5つの小さな穴を開けて、そこからカメラや鉗子などのついた器械を入れて、内部を外部モニタに写して、手術を進めていく方法です。

「内視鏡」は元々「胃カメラ」の別名のようなもので、消化管の中に、先にカメラなどをつけた管を入れて検査などをする器械だったのですが、治療もできるようになり、「内視鏡手術」と呼ばれるようになりました。

しかし今では「腹腔鏡手術」と「内視鏡手術」とはほとんど同じ意味で使われています。

――腹腔鏡手術は、治療の結果とともに、患者さんの負担の少ないことが注目されていますが。

瀧口 同じ結果であれば傷が小さくて、患者さんが楽な方がいいはずです。
しかしがんの手術成績を従来の手術と比較するには長い月日が必要です。第一例が日本で実施されて、20年近く立ちましたが、生存率などにおいてこれまでの手術成績と異なるかは明らかになっていません。

私は、傷が小さいだけでなく、もしかしたらガンの手術の成績も上がるかも知れないと考えて研究・治療を続けてきました。

――デジタル機器の進歩が大きいのでしょうね。

瀧口 機械の進歩は大きいですね。1990年代、私が始めた頃の画像のレベルは、通常のビデオの規格でした。今のハイビジョン、ハイディフィニションといわれるカメラそのものの器具の向上が腹腔鏡手術の進歩にとって非常に大きな役割を果たしています。

現状では私が肉眼でお腹の中を見渡すよりもカメラで見渡した方がより細かなものが確認できます。体の繊維の一本一本、血管の一本一本をカメラで確認できることが、今腹腔鏡手術をされる医師が増えてきている大きな要因です。

最近は患者さん自身が負担の少ない腹腔鏡手術を選ばれることが多くなってきました。

その時に外科医として技術面からそれが提供できない外科医も多くいるのが現状です。多くの外科医が、最初からできるという手術ではありませんので、先人の指導を受け、トレーニングをして学んで身につけています。

やっていくうちに、細かな組織が見えることによる腹腔鏡手術の精度の高さというメリットを医者自身が再認識するという現象が起きています。こうして腹腔鏡手術の魅力を感じる医師が増えています。

――モニター画像の中で操作をするというのは難しいのでしょうね。

瀧口 難しいというより、トレーニングが必要だということです。

十分トレーニングされた医師が手術をすれば、腹腔鏡手術のメリットは十分生かされます。しかし、経験のない医師がされたのでは、腹腔鏡手術の十分な力を発揮することはできません。それをどう埋めていくかが私達の課題です。

その方法のひとつとして、ロボットの導入で腹腔鏡手術の難しさをカバーする発想があります。

ロボットというと、すべてオートマチックなロボットを皆さん想像されていると思うのですが、私達が指すロボットは、「マスター・スレイブ」というタイプのロボットです。

操作する人間(マスター)がいて、その操作する内容をそのままロボットが再現する。即ちロボットを操っているマスター(主人)がいて、スレイブ(奴隷)がいるというのが今の手術用ロボットです。実際に、ここを切って、あそこを切ってというのは、当然医者が確認しながら手術操作をします。

今のところ、ロボットがなくても腹腔鏡手術は十分できますが、大学病院は、臨床だけではなくて、教育、研究を同時にやっていかなければなりません。

多くの医師にロボットを含めた腹腔鏡手術の普及・導入が責務で、ロボットは教育、普及のツールとしては検討すべきではないかと思っています。

――次回へ続きます。


瀧口 修司 先生略歴
1957年大阪生まれ
91年大阪大学医学部卒
97年同内視鏡外科助教
現在同消化器外科講師