シリーズ特別企画Vol.2 「移植医療の、昨日・今日・明日」

 

2010年の移植法改定後も、臓器移植数は世界の最下位

■上本 伸二先生〈京都大学医学研究科外科学講座教授〈肝胆膵・移植外科分野〉
■髙橋 政代先生〈理化学研究所 多細胞システム形成研究センター 
 網膜再生医療研究開発プロジェクト プロジェクトリーダー〉

※50音順

世界の注目を浴びている、「iPS細胞による臨床研究の先頭を走る」高橋政代先生、肝胆膵の移植治療の第一人者の上本伸二先生。このお二人に、「移植医療の、昨日・今日・明日」のテーマでお話いただきました。

――上本先生、移植外科一般について日本のいまの状況を。

上本 日本で肝臓移植がはじまって四半世紀が経過しました。
当初は肝臓移植が行われたのは子どもで、脳死の患者さんの移植は日本ではできないので、海外で移植を受けるという時代で、私が患者さんご家族といっしょに行って治療を受けました。

その状況を日本独自の方法で解決したのが、田中紘一先生たちがはじめられた生体肝移植という方法です。しかしこれは、移植本来のあり方としてはお父さんお母さんをはじめ、健康な方を手術して、肝臓の一部をいただくということですのでやはり特殊です。
世界的には、脳死の方からの臓器提供を受けて移植するのが一般的な方法で、健康な方に手術を受けていただくというリスクをかけて治療する生体移植は、移植のなかでは特殊な方法になります。

生体移植がはじまった当初、「健康な人の手術をするのはどういうことだ。これはもう医療にまったく反するのではないか」という意見がありましたが、しかしこの方法以外に現実に重い肝臓病の人の命を救う方法はなくて、反対する人は少なくなってきました。しかしやはり健康な方への手術ですので、まったく安全かと言う点では、日本国内で生体肝臓移植が7000例を超えましたが、1人のドナーが亡くなっています。
世界に目を向けますと生体肝移植は世界中で行われていますが、ドナーの死亡例は少なくありません。100パーセント安全ではありません。
肝臓だけではなく生体腎移植の歴史はもっと古く60年前から行われていますが2年ほど前にもドナーの方が亡くなったという報告がありました。それらのことを、しっかり受け止めたうえで、医療は推進していくべきです。
ご家族の方の思いを受けて、子供たちが元気になって社会生活を行えるということは非常にすばらしいことですが、一方では、そういう現実があるということを見ておかなくてはいけません。

――日本での脳死移植はうまく行っているのですか。

上本 日本の脳死移植の法律ができたのは1997年、今から18年前にやっと日本での脳死の臓器移植がはじまったのですが、本人の生前了承が必須でした。2010年にはその法律が変わって、ご家族のご了解、ご承認、全体一致のご意見だけでできることになって、世界的なスタンダードになりましたが、それでも日本の臓器移植は世界並みには増えていません。

治療の成績は世界のトップクラスですが、臓器移植の数では世界の最下位です。制度上は、日本でも諸外国と同じように臓器移植ができるようになりましたが、実際には、臓器提供者はきわめて少ないという状況です。そこから期待するのは、iPS細胞からできる組織、あるいは臓器の移植以外にはないということで、そこに眼を据えて研究をしているのが現実です。

――次回へ続きます。

上本 伸二 先生 先生略歴
昭和31年生まれ。
京都大学医学部卒。
同研究科教授などを経て、
平成26年同研究科長、医学部長。
生体肝移植をはじめ、多くの臓器移植手術を手がける。

髙橋 政代 先生 先生略歴
昭和36年生まれ。
京都大学医学部卒。眼科臨床医、
京都大学助教授などを経て、
平成18年から理化学研究所で網膜再生研究のチームリーダー。

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