シリーズ特別企画Vol.1 「移植医療の、昨日・今日・明日」

 

iPS細胞による治療研究は網膜色素上皮細胞が先行、
続くパーキンソン病 ただし、標準治療はまだ先の話

■上本 伸二先生〈京都大学医学研究科外科学講座教授〈肝胆膵・移植外科分野〉
■髙橋 政代先生〈理化学研究所 多細胞システム形成研究センター 
 網膜再生医療研究開発プロジェクト プロジェクトリーダー〉

世界の注目を浴びている、「iPS細胞による臨床研究の先頭を走る」高橋政代先生、肝胆膵の移植治療の第一人者の上本伸二先生。このお二人に、「移植医療の、昨日・今日・明日」のテーマでお話いただきました。

自家移植から他家移植へ
研究から治療へ

――網膜細胞の臨床研究・治験などは、今どのような形で進んでいるのですか。

髙橋 昨年9月にはじめての網膜細胞の移植手術が無事に行われました。現時点で、拒絶反応なしに順調に進んでいます。私達は安全性の確認、細胞の性質について、もう5、6年検討しており安全性には問題ないと確信していますが、それを世界に示さなければなりません。客観的データと具体的な成功例がなくては、私達が「安全です」といっても、
1、iPS細胞の作り方が安全になっている現状、
2、網膜色素上皮細胞が、ほとんど腫瘍を作らない細胞であること、
3、眼科診療は、非常に緻密な診察が行われ、移植細胞の異常を素早く検出でき治療できること。
その3点をすべて深く知っておられないと安全性がわからないのですが、それをすべて知ることは、かなり難しく「まだ危険ではないか」と思っている人がかなりおられます。
その段階ですので、9月の移植で、なによりも安全にiPS細胞が使えることができた事は非常に大きな成果だと考えています。

特にそのなかのひとつとして、自家細胞でもiPS細胞には拒絶反応があるのではないかという懸念がある中、動物実験だけでなく、人の体でも拒絶反応がないとわかったことは大きな成果かと思います。
いままでのすべての移植医療は他人の犠牲のうえに成り立っていたのですが、iPS細胞によってはじめて「自分の細胞でできる」ようになり、今回は、患者さん自身の細胞の自家移植で、徹底的にその細胞を調べ上げて移植が行われました。

しかしそういう方法で一人ひとりを治療しますと、コストの面で見合わないので、つぎの段階は、他人の細胞を使った、他家移植による臨床研究によって、もっと多くの方に治療を受けていただけるようにと進めています。
眼の場合は、山中先生の細胞ストックを使うことによって、拒絶反応の少ない他家移植ができるようになりますので、その準備を進めているところです。
iPSのメリットは、そういう、多くの人に合うHLA(白血球の型)を揃えることが、ES細胞に比べて容易であることで、網膜の場合は他家移植でも拒絶反応のほとんどない治療ができます。
さらにいまは遺伝子を変えることがどんどん進んでいますので、20年後ぐらいには自家移植にまたいずれ戻ってくると予想されます。20年から50年後ぐらいまでにどうなるかと考えながら臨床研究を進めています。

いまはまだ、治療とは呼べない臨床研究の段階で、動物実験をいくら繰り返しても、人の患者さんではどうかとなると予測できないところがありますので、人の症例を重ねていくしか方法はありません。私達は1例をしただけですが、それでも非常に多くのいろいろなことがわかってきました。それを生かして、できるだけ多くの患者さんに早く治療ができるようにしたいと考えています。

――患者さんの期待が大きいでしょうね。

髙橋 毎週患者さんからは「いつできますか」といわれますし。そのためには自家移植でなく、他家移植で臨床研究が必須です。他家移植では同じ細胞シートから何十人もの移植がすぐにできます。症例を重ねて、ほんとうの治療にしていくために、他家移植が必要です。その準備を急いでやっているところです。
もうひとつは、視細胞という網膜細胞とは別の細胞の、1人目の手術を5年以内にしたいと思っておりまして、大日本住友製薬といっしょに準備を進めています。

――次回へ続きます。

上本 伸二 先生 先生略歴
昭和31年生まれ。
京都大学医学部卒。
同研究科教授などを経て、
平成26年同研究科長、医学部長。
生体肝移植をはじめ、多くの臓器移植手術を手がける。

髙橋 政代 先生 先生略歴
昭和36年生まれ。
京都大学医学部卒。眼科臨床医、
京都大学助教授などを経て、
平成18年から理化学研究所で網膜再生研究のチームリーダー。

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