大阪府立急性期・総合医療センター

 

府下3か所の「高度救命救急センター」の南部の拠点、
救急専門医・周産期専門医等人材養成の「大阪府医療人キャリアセンター」事務局、災害時の府下の司令塔「基幹災害医療センター」

吉岡 敏治先生〈大阪府立急性期・総合医療センター院長〉
藤見  聡先生〈同、高度救命救急センター長〉


昭和30年の開院以来半世紀に渡って府民に親しまれてきた「大阪府立病院」は、平成15年に現在の名称である大阪府立急性期・総合医療センターと名称を変え、急性期医療部門をつくる。平成19年に急性期医療部門の組織再編成を行い、CCUの増床とSCUを新設し新たな救命救急センターとして稼動。平成22年7月には高度救命救急センターの指定を受けている。大阪府南部の救急医療の拠点かつ最後の砦としての役割を果たす病院である。また大阪府内14の「災害拠点病院」を統括する「基幹災害医療センター」として、災害時の大阪府下の司令塔の役割を果たす病院でもある。さらに救急専門医・周産期専門医等を育てる、「大阪府医療人キャリアセンター」の事務局の役割も担っている。
院長の吉岡敏治先生、「高度救命救急センター」長の藤見聡先生にうかがいました。

 


病院全体が全診療科をあげて救命救急を推進
府下3番目の「高度救命救急センター」に


――日本の救急医療は、一次・二次・三次と分けられているとのことですが。

吉岡 傷病の重症度に応じて対応する医療機関が設定されています。「初期救急」とは、入院の必要がなく外来で対処しうる帰宅可能な患者を診療する救急医療のことです。昼間は地域のクリニックや一般病院が、時間外は休日夜間急病診療所がこれを担っています。「二次救急」とは入院治療を必要とする患者に対応する救急医療で、一般の総合病院がその任務を担っています。そして「三次救急」とは二次救急医療では対応できない重篤な患者、複数診療科にわたり高度な処置が必要な患者を対象とする救急医療で、救命救急センターがその対応医療機関です。
 三次救急に対応する救命救急センターは、日本全体で245か所が指定されており、その中でも特に高度な診療機能を提供する施設を高度救命救急センターと定めています。現在全国に25か所の救命救急センターがその“高度”の指定を受け、その90%以上が大学病院です。
 大阪府下では、「救命救急センター」は11か所、「高度救命救急センター」は3か所が指定されています。この3か所は、大阪大学医学部付属病院、関西医科大学附属病院、そして私達の「大阪府立急性期・総合医療センター」です。大阪府立急性期・総合医療センターが大学病院でないのに「高度救命救急センター」に指定されたのは、病院全体が急性期の病態に、全診療科をあげて、幅広く救命救急を推進しているからです。

 


多発外傷、脳卒中、心臓血管から、精神科、産婦人科まで総合的に
急性期の病態すべてに対応


――「大阪府立急性期・総合医療センター」の「高度救命救急センター」のシステムはどのようになっているのですか。

吉岡 通常の病院では、診療科として大きくは「内科系」「外科系」の二つに分けられますが、当センターでは、内科系、外科系のみならず急性期診療部門があります。この「急性期診療部門」の中に心臓血管センター、脳卒中センター、救急診療科が独立して存在し、3センターの病床すべてが「高度救命救急センター」の指定を受けています。
 「心臓血管センター」では、急性心筋梗塞・急性冠症候群、急性心不全、急性肺塞栓、致死性不整脈などを対象に、超急性期から回復期まで、一貫した治療を最新の機器・技術で行います。「脳卒中センター」は、脳梗塞・くも膜下出血・脳出血等を収容し、これも超急性期から回復期まで一貫した治療を行いますが、当センターのリハビリテーション科は特筆すべきで、常勤医6人、理学療法士等およそ50人を有する通常の病院にはない規模で、極めて充実した回復期リハを行っています。
 高度救命救急センターの外来には「IVR-CT」という、64列のCTscanと血管撮影が同時にできる装置を救命救急施設では初めて導入しました。各種モニターやエコーなども独自に組み込まれたこの装置は、診断と治療が同時に進む救急治療に最も適した設備です。
 救急診療科は本来、「救命救急センター」として活動してきた部門で、多発外傷、重症熱傷・切断肢、中毒等のほかに、脳卒中センターと心臓血管センターが対象としない、あらゆる臓器、疾病の重症救急に当たります。

――あらゆる臓器・疾病の重症救急というのは?

藤見 消化器、呼吸器、周産期医療など、脳・心臓以外のすべての病気です。産婦人科や精神科、整形外科領域の救急もあります。

――産婦人科領域ではどういう症例がありますか?

吉岡 分娩関連の大量出血例がその代表ですが、中には妊娠末期の喘息重責発作など、産科疾患とは違うものもあります。出産時に出血がとまらず、子宮を全摘して、後の全身管理は救命救急センターの中でした方がいいというような最重症の患者さんです。もちろん産婦人科の医師が子宮摘出手術は行いますが、医療としては救命救急病棟での管理が主体で、全身状態が安定すれば産婦人科の病棟で診ることになります。
 大阪府内で、「最重症妊産婦受け入れ病院」として、救急部門のある周産期母子医療センターなど10数か所が決められていますが、私達の病院もその一つです。昨年の把握されている府内の最重症妊産婦症例は133例で、そのうち21例が当センターに搬入されています。また救急搬送された未受診妊婦も148例が把握されていますが、これも当センターは20例を受け入れております。いずれも単独の施設では最も多数の症例を受け入れています。

――精神科で救急治療と言うのは?

藤見 精神科の病気を持った人が、熱傷や転落・交通事故などで外傷を負ったり、重症度の高い疾病にかかった場合などです。いったん救急病棟に入っていただいて、落ち着いてから精神科病棟で診ます。
 このようなケースを「精神科合併症救急」と呼びますが、単科精神科病院(精神科専門病院)で受け入れるのは難しく、全科を備えた大学病院には精神科はありますが、診療各科の協力が得られにくく、なかなか受け入れてはくれません。大阪府下で11の病院が「精神科合併症救急病院」に指定されていますが、私達の病院が100例くらいを受け入れて、残りの10病院は、1病院で数例程度を受け入れているのが現状です。
 こういう症例の治療は、100床や200床の民間病院ではなかなかできません。私達は30の専門診療科を背景に、総合的に急性期の病態すべてに対応するように病院を組織しています。

 


医師・救急隊が重症度を判断して搬送
判断の難しい症例にも的確に対応


――「高度救命救急センター」には重症の患者さんだけが送られてくるのですね。


吉岡 医師あるいは救急隊のいずれかが重症だと判断して送られてきます。基本的に患者さんは直接「救命救急センター」「高度救命救急センター」を受診することができないシステムになっています。
藤見 脳卒中の場合であれば、医師・救急隊が、これは脳卒中と判断して、脳卒中センターのホットラインで収容依頼をしてから脳卒中センターへ搬入されます。

―― 一次救急、二次救急の患者さんが、「大阪府立急性期・総合医療センター」に来られた場合はどうなるのですか?


藤見 私達のところへ送られることは少ないのですが、送られてきた場合には、昼間であれば内科、外科の一般外来が担当しますし、夜間休日は、当センター通院中の患者さんの急変に備えて設置しております時間外外来で診ます。たとえば交通事故などで救急隊によって送られてきた場合には軽い外傷であれば、整形外科の外来で診察しますし、重症と判断した時には「高度救命救急センター」で診察・治療します。そういう意味で、「大阪府立急性期・総合医療センター」は、軽症でも重症でもオールマイティに患者さんを診ることができます。

――救急隊、医師による重症度の判断は難しいのではありませんか。

吉岡 ちょっとした切り傷は一次救急、肝臓破裂は三次救急と、外傷は観察だけでも比較的明瞭に重症度で分けられます。熱傷も面積と深さで重症度が決まります。
 しかし疾病の重症度は判断が非常に難しく、胸が痛いと訴えるだけの患者さんが、30分後には心筋梗塞の範囲が拡大して心停止になることがしばしばあり、逆に胸が痛いだけで治る人もあります。特に特定病態の疾病に重症度はなく、すべて専門病院で対応すべきというのが私の持論です。したがって疾病では重症度の低い人が私達の「高度救命救急センター」に送られてくることも、重症度の高い人が外来に送られることもあり得ます。しかし救急隊の判断が違っていても、その重症度にかかわらず、的確に診断・治療のできる態勢になっているところに私達の病院の強みがあります。
かつての「大阪府立病院」にも「救命救急センター」はありましたが、外傷や熱傷、中毒に特化した特定の範囲内での救急診療を行ってきました。現在の「高度救命救急センター」を備えた「大阪府立急性期・総合医療センター」は、全部の診療科を巻き込んで、病院全体として救急医療をしておりますので、より懐の深い急性期病院になったといえます。

――夜間の診療はされているのですか。

吉岡 開業の先生方の外来診察が終わる夜8時頃までほとんど全科が診療をしていますし、小児科を始め、二次救急告示をしている8診療科はいつでも対応が出来る体制を取っています。
藤見 休日診療所や夜間救急医療センターを受診した患者が入院が必要と判断された場合、入院治療の可能な病院に移送することを、「後送」と言いますが、その「後送病院」に指定されています。

 


大阪府下17の「災害拠点病院」の
司令塔として「基幹災害医療センター」に


――「基幹災害医療センター」としても注目されていると聞いていますが。

吉岡 災害に備えて、全国で約550施設、大阪府内では19施設が災害拠点病院に指定されています。大阪府では、救命救急センターを持つあるいは併設している病院が災害拠点病院として指定されてきました。
 災害拠点病院が持つべき機能は大きく分けて5つあります。一つ目は救命医療を行うための高度な診療機能です。救命救急センターが指定される所以です。二つ目は被災地からの重症傷病者の受入れ機能です。病床の増床が可能な病院に限られます。当センターは障害者リハビリセンターを災害時には臨時病棟として利用することが可能であり、この棟のみで400床の増床が可能です。三つ目は傷病者の広域後方搬送への対応機能です。被災していない地域へ傷病者を効率よく送り出すためにはヘリコプター搬送が有用です。したがってヘリポートを所有している病院となります。当センターには院内と直結するヘリポートがあります。四つ目は医療救護班の派遣機能です。急性期のDMAT(Disaster Medical Assistance Team)、あるいは亜急性期から慢性期にかけての救護班を派遣する機能です。東日本大震災では当センターからDMAT隊2チーム11名と救護班5チーム30名を派遣しました。五つ目の機能は地域医療機関への応急用医療資機材の貸出し機能です。医療資器材の院内備蓄が必要です。
 当センターはこれら5つの機能に加え、府内災害拠点病院の司令塔の役割を持つ基幹災害医療センターに指定されています。ちなみに基幹災害医療センターは各都道府県に概ね1施設もしくは2施設であります。

――どのような活動をされているのですか?

吉岡 実際の災害現場への派遣以外には、主として訓練や研修会を行っています。府内の災害拠点病院や災害協力病院に対し災害医療従事者研修を年2回、自施設を使った公開の災害訓練も年2回行っています。また、厚生労働省から(財)日本中毒情報センターに委託されているDMAT隊員を対象としたNBCテロ対策セミナーも当センターで行っています。
藤見 大阪府下で災害が起きた場合には、災害拠点病院間の患者転送と、緊急医療班派遣を調整する任務が当センターにあります。尼崎におけるJR福知山線脱線事故の際には、兵庫県の基幹災害医療センターと協力し、大阪府内の災害拠点病院へ患者を分散収容する指揮をとりました。
 また近畿2府6県の基幹災害医療センターと府県行政機関による連絡協議会の企画・運営にも携わっています。

 


「大阪府医療人キャリアセンター」で救急専門医と周産期医療の専門医を養成
「大阪府立急性期・総合医療センター」が事務局に

――卒後研修を終わった医師の、救急専門医と周産期専門医としてのキャリアアップのための「大阪府医療人キャリアセンター」の事務局が、この「大阪府立急性期・総合医療センター」に設置されているとのことですが。

吉岡 本来キャリアセンターは、医療過疎・人材不足の地域に派遣する人材を育てるという趣旨で、国と都道府県が2分の1ずつの補助金を出して設置することになっていました。昨年度は全国で15の都道府県に国からの予算がつきましたが、多くは北海道・東北地方などで、大阪府は人口あたりの医師数が比較的多く、国からの補助金はもらえませんでした。
 しかし大阪府の場合、地域の基幹病院でも特定の診療科は人材不足で、特に「救命救急センター」や「周産期医療センター」においては定員割れの結果、運営に支障を来しているところがあります。
 このような状況を改善したいと、医師のキャリア形成支援と、府内基幹病院のバランスのとれた医師配置の推進を一体的に行うことを目的にして、大阪府の100%出資で救命救急と周産期医療のキャリアセンターを、2011年(平成23年)4月から立ち上げました。今後放射線科、麻酔科、リハビリテーション科なども順次立ち上げる予定です。

――どのようなキャリアプランを作るのですか?


藤見 現在救急コースと周産期コースの2つの専門医育成コースキャリアプランが実働しています。救急コースでは、府内の大学病院を含む救命救急センターで救命救急の臨床を2年ほどつんだあと、サブスペシャリティーの方向性によって外科、整形外科、脳神経外科などの研修病院に行って頂きます。卒後5年目までに救急医の基盤つくりをした後は、専門医や学位の取得を目標としたキャリアプランがキャリアセンター長と本人の合意に基づいて策定されます。
吉岡 若い医師たちは、指導体制・施設基準の充実した施設でキャリアアップを図ることを望むとともに、さまざまな研修・交流の機会が得られることを希望しています。大阪府の事業ですので、大学や病院にこだわらず公共的・中立的な立場で対応し、また現在の医局や病院に所属したまま、情報共有や交流会に参加することもできる自由度の高いシステムです。このシステムに参加することによって、優れた救急医療、周産期医療の専門医師が育つことを期待しています。

 


吉岡 敏治先生略歴

大阪府立急性期・総合医療センター院長、財団法人日本中毒情報センター理事長
昭和46年大阪大学医学部卒業、
昭和54年大阪大学医学部救急医学講座助教授、
平成15年大阪府立急性期・総合医療センター医務局長を経て平成23年4月から現職
日本救急医学会、日本外傷学会、
日本熱傷学会、日本中毒学会の理事を歴任

主な著書等:集団災害医療マニュアル:阪神・淡路 大震災に学ぶ新しい集団災害への対応、化学兵器等中毒対策データベース

 


藤見 聡先生略歴

大阪府立急性期・総合医療センター 高度救命救急センター長
平成3年弘前大学医学部卒業、
平成12年大阪大学医学部救急医学講座医員
平成15年Harvard Medical School リサーチフェロー、平成20年大阪府立急性期・総合医療センター 救急診療科副部長を経て、平成22年7月より現職

主な資格等:日本救急医学会指導医、日本外科学会指導医、日本外傷学会専門医、日本救急医学会評議員、日本外傷学会評議員、統括日本DMAT隊員、大阪大学医学部臨床准教授