腹腔鏡手術へはまだ過渡期
すべての医師が使いこなせる治療法にはなっていない
瀧口修司先生〈大阪大学医学部付属病院消化器外科講師〉
腹腔鏡による胃がんの手術は、初期胃がんからさらに進行した胃がんに至るまで、患者さんの体に負担の少ない手術として、ますます浸透しています。しかし開腹手術から腹腔鏡手術への過渡期でもあるため、医療機関や医師によっては、治療に違いがあります。腹腔鏡による胃がん手術のエキスパートとして知られる瀧口修司先生にうかがいました。
――今後の流れは、もう腹腔鏡に。
瀧口 手術の方法や進行のパターンが決まっている手術を「定型手術」といいますが、それは腹腔鏡手術になると思います。症状次第ですが、腹腔鏡手術が提供できる範囲が確実に増えてきてるのは間違いありません。阪大では6、7割が腹腔鏡手術です。
しかし各施設の技術水準に合わせて腹腔鏡手術は選択しているので、腹腔鏡と開腹手術の割合が、逆転している施設が多いのが現状です。もし、腹腔鏡手術を受けたいときには、ある程度実績のある医療施設を選ぶのが大切です。
腹腔鏡手術に関しては、症例数の多いところを選ぶのは間違いではありません。
――腹腔鏡手術をしていて、開腹に切り替えるのはどれくらいの割合ですか。
瀧口 100例に1、2例ぐらいはあります。そのことは必ず患者さんに言っています。
――開腹手術の方が良いという医師もおられますが。
瀧口 その医師の技術や経験に立って、ベストなものを提供できるものを提供すべきであって、無理に時代の流れに乗ることは、外科医に取っては非常に危険です。
胃ガン学会は、腹腔鏡手術について、厚労省が2002年に保険を通し、保険診療してもいいですよということを認めてる治療でありながら、未だに腹腔鏡手術を研究段階の治療としています。
私も、今の段階としては、それが正しい位置づけだと思います。過渡期に無理をしてすべての外科医が提供すべき手術ではないのだろうと思います。
医師が患者さんを見て、私はこの症状を治療するのに開腹手術では自信がある、しかし腹腔鏡では自信がないときには、開腹手術を選ぶのが正しい外科医の判断です。
患者さんもいろいろ勉強する必要があります。腹腔鏡手術を希望されるのであれば、開腹手術が得意な病院でなく、腹腔鏡手術の得意な病院で受けるということも選択肢として考えることが必要です。
――そういう意味での過渡期なのですね。
瀧口 過渡期ですね。できない手術を無理して提供するのは外科医にとっても不幸ですし、患者さんにとっても不幸です。
患者さんもよく勉強されて、どういう手術が自分にとっていいのかということをある程度知識を得た上で、手術を受けられるのが、過渡期の時代には必要です。
腹腔鏡手術は、器具が進歩して、開腹手術と同程度、それ以上の手術が提供できるのは間違いない事実ですが、提供する側の準備はまだまだ過渡期と考えられます。
――すべての医師が使いこなせる治療法になっていないのですね。
瀧口 内視鏡外科学会の調査では、まだまだ症例数が右肩あがりで増えています。右肩あがりで症例数が増えているのは、やはり過渡期だということです。
安定期に入ると、症例の推移は真横になってしまいますから、そういう状況になると、腹腔鏡手術がほんとうの標準手術になったということです。
「胆嚢摘出手術」は同じ腹腔鏡手術であっても、症例数の増加はもう5年、10年ぐらい前に安定期に入っています。
――賢い患者さんになることが必要なのですね。
瀧口 かもしれないですね。いろいろな情報を入手した上で手術を受けられることは必要です。
――最後に、開業医の先生方にメッセージを。
瀧口 昔の大学病院のイメージと違って、今は大学病院も経営改善が求められ、患者さんをどれだけ手術したかという数字も大事にして、サービスもよくなってきています。多少遠いでしょうが、患者さんのご希望があれば、腹腔鏡による治療は遠慮なく紹介していただければと思います。
――ありがとうございました。
瀧口 修司先生略歴
1957年大阪生まれ
91年大阪大学医学部卒
97年同内視鏡外科助教
現在同消化器外科講師