第2回 iPS細胞による重症心不全治療の最前線を行く

 

iPS細胞で、重症心不全治療の臨床研究をしているのは
世界中で大阪大学だけ

澤 芳樹 先生
〈大阪大学大学院医学系研究科心臓血管外科教授〉


 そこでiPS細胞が有効ではないかと、山中先生と2008年から共同研究して成果が上がりつつあります。

山中先生が2012年にノーベル賞をとられて、ちょうどそのときに文科省から拠点整備事業として、日本で4つのセンターを作って、疾患ごとに研究を進めようということになって、日本の中で大阪大学がiPS細胞で心筋細胞を作って再生医療と同じシートにして実施するということが決まり、いま研究している段階で大阪大学はiPS細胞を現実の治療に応用している世界の最前線です。

――眼の網膜細胞で臨床がすすめられていますが。

 必要な細胞数のけた数が違います。網膜の場合は数万個。心臓を治すには10億個必要です。1万倍以上の差があって、そのためには大量バイオ技術、安全性、リスクの排除が問題です。リスクの一番の根源はiPS細胞が未分化なままで、どれだけ入っているか、それをどう排除するかという問題。どれぐらいのレベルだと人に投与していいかという基準が世界中にないので、それをいま一生懸命作っています。

日本でも世界でも、重症心不全の再生医療の臨床をしてるのは、大阪大学だけです。たくさんの患者さんが、日本中から、またサウジやカタールからも来られます。世界中でそういうニーズが高まっています。

――先生の教室では、いろいろなことをされているのですね。

 普通の心臓手術もたくさんして、低侵襲の手術にチャレンジして、また心不全を治すことに教室の全員が情熱をかけています。大阪大学が心臓外科治療のトップランナーと自他ともに認めています。全員がパワフルに仕事して、それが結果を出して、患者さんを救うのにつながっています。


人体では、テルモ株式会社で治験が終わって、来年の承認を目指して

――これからの課題、先生ご自身のライフワークは。

 重症心不全の克服です。「心臓では死なない」「心不全では死なない」という旗を立てて、振っています。心臓が使えなくなれば、今は移植か人工心臓ですが、究極は細胞そのものを元気にする再生医療です。足の筋肉で実証されたように、再生医療では重症心不全で死に直面した人が非常に元気になられます。心筋細胞は単純ですのでうまく移植できれば、細胞補充療法としての効果は絶対。ご本人の状態が全然違います。

――今、人体でのiPSの治療研究はどの程度まで進んでいるのですか。

 もう動物実験ではできました。人体では、テルモ株式会社で治験が終わって、来年の承認を目指しています。それが一般医療に普及して保険適用されたらすごいことになります。世界ではじめてで、まだまだハードルは高いのですが、今もっとも求められている医療のひとつです。

がんの克服も、また、これからすごいことが起こりそうです。免疫学が進化してきましたから。良い意味での、競争になりそうです。

 

 


――ありがとうございました。



澤 芳樹 先生略歴

1955年生まれ。
1980年、大阪大学医学部卒業、
大阪大学医学部第一外科入局。
1989年、フンボルト財団奨学生として、ドイツの Max-Planck 研究所 心臓生理学部門、心臓外科部門に留学。
その後、大阪大学医学部第1外科助手、医局長、講師を経て、
2002年に大阪大学医学部臓器制御外科(第1外科)助教授、付属病院未来医療センター副センター長に就任。
2004年、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科副科長。
2006年、大阪大学大学院医学系研究科外科学講座心臓血管・呼吸器外科教授および
大阪大学医学部附属病院未来医療センターのセンター長に就任。
現在、大阪大学大学院医学系研究科外科学講座 心臓血管外科 主任教授科長、
大阪大学臨床医工学融合研究教育(MEI)センター センター長。