第1回 介護ロボットの現状と展望

 

全自動排泄処理ロボット

『マインレット 爽(さわやか)』が介護の世界を変える

<在宅におけるQOLの向上と介護労働負担の軽減にも>

田中 一正〈大和ハウス工業株式会社 理事 ヒューマン・ケア事業推進部長 ロボット事業推進室長 日本生活支援工学会 理事〉

住宅メーカーとして知られる、大和ハウス工業株式会社は、介護、自立支援ロボットの普及に積極的に取り組んで、一部では「介護ロボットといえば大和ハウス」という声も聞かれます。
同社理事 ヒューマン・ケア事業推進部長の田中一正氏にうかがいました。


「お客さまがいつでも元気に過ごせる住宅を」の発想で

――住宅メーカーが、ロボットを通じて、介護の世界に積極的に取り組んでおられるのは少し意外ですが。


田中 良い住宅を提供するだけではなく、「お客さまがいつも健康で元気に、また障がいをお持ちになったとしても、生活支援ロボットを使い、できるだけ長く自立した生活を送っていただき、当社の住宅に住み続けていただくことが、住宅メーカーの使命」と考えています。

介護、自立支援ロボットに積極的に取り組んでいる大企業はほとんどありませんので、私達がそのパイオニアとして、お役にたつ介護、自立支援ロボットを提供していきたいと考えています。

――現在、どのような自立支援ロボットを市販しておられるのですか。

 

田中 まだ在宅用は発売されていませんが、すでに全国160以上の施設にリース・レンタルでご提供しているのが、「ロボットスーツHAL ®福祉用」です。
脚に着けて、加齢で脚力が低下した方や、下肢の不自由な方の、新しい一歩をアシストする、自立動作支援ロボットです。

さらに、「メンタルコミットロボット パロ(PARO)」は、「人の心を元気づけ、穏やかにするアザラシ型ロボット」として注目を浴びています。
イヌやネコなどは、今や生活に欠かせない存在として人々の心をとらえています。しかし、さまざまの事情で、ご自宅で本物の動物を飼えない方もおられます。そんな方に、本物の動物と同じように触れ合うことのできるロボットです。

――どんなことができるのですか。

 

田中 まぶた、首、前足、後ろ足が動き、本物のアザラシを元につくった鳴き声を出し、「生き物らしい動き」をします。また自分の名前を憶え、その名で呼ばれると反応するようになり、飼い主の好みの行動を学習します。

――自分専用の、動物ロボットなのですね。

田中 接し方で性格が変化し、優しく接しているとパロも優しい性格になり、嬉しいことには仕草や鳴き声で喜びを表現し、乱暴にすると嫌がります。そして、朝・昼・夜のリズムをもっており、活発な時間と休んでいる時間があります。「ペット用」「セラピー用」があり、「セラピー用」は、躁うつ病、認知症など、医療福祉施設などでの、治療やトレーニングツールとして使われます。


「感知→吸引→洗浄→除湿」の工程が完全に自動で

――全自動排泄処理ロボット『マインレット爽(さわやか)』〉で、介護の世界が変わると、お聞きしていますが。

田中 「排泄物の処理」は、介護のもっとも大切な部分です。『マインレット爽(さわやか)』は、ご本人にとっては、おむつ内に排泄する際の嫌な不快感(異物感、臭い)がなく、排泄がとても爽やかで、家族やヘルパーさんに気兼ねなく排泄できます。しかも局部を洗浄、除湿するので、いつも清潔で衛生的で、快適です。

また介護する人にとっては、排泄するごとにおむつ交換する必要がなく、深夜のおむつ交換も不要になり、身体的、精神的不安を大幅に軽減でき、時間や気持ちにゆとりが生まれます。

すでに介護保険「貸与」品目対象機器となり、一割負担でお気軽にレンタルできて、非常に好評をいただいています。

――仕組みはどうなっているのですか。

田中 ご本人に、おむつと同じような、専用カバーをつけた「排泄物カップ」をセットします。
排泄物カップには、吸引ホース、送風・洗浄水の各ホースが一体化した「ホースユニット」が接続されていて、そのホースは、足元に置かれた、「排泄物タンク」「洗浄水カートリッジ」などの入った本体に接続しています。

排泄物カップ内のセンサーが排尿・排便を感知すると、排泄と同時に排泄物を吸引し、温水で局部を洗浄し、さらに除湿までを、すべて自動的に行います。「感知→吸引→洗浄→除湿」の工程が完全に自動で行われます。

排泄物カップの装着方法も介護者が慣れれば簡単ですし、排泄物処理も、排泄物タンクを取りだし、トイレで流せばいいだけですから、排泄物に直接触れることなく行われ、ニオイ漏れはほとんどなく、除菌フィルターで本体は常に清潔に保たれ、微風機能でご本人の肌は常にサラサラです。

要介護4・5ぐらい、ほとんど寝たきりの方の排泄の支援に使用されます。
その他に、歩行訓練ツール「免荷式リフト『POPO』」は、リフト機能で安全に立ち上がり、免荷機能で負担を軽減して歩行ができるので、転倒するリスクがなく、意欲的に歩行訓練ができます。

研修用のツールとしては、「シニアポーズ」と言って、高齢期の疑似体験ができる装具が、医療・介護・看護の専門学校などに導入されています。

――保険適用などは。

田中 「マインレット爽」はご家庭でご利用いただく場合に介護保険が適用されます。その他のロボット介護機器は保険適用が受けられないので、施設で使われる場合は、施設側の負担になります。


――次回へつづく。



田中 一正 理事略歴

大和ハウス工業株式会社理事
ヒューマン・ケア事業推進部長
ロボット事業推進室長
医療・介護支援室 担当

〈略歴〉
1952年 
滋賀県生まれ。
立命館大学理工学部土木工学科卒業。
1975年
大和ハウス工業株式会社入社。
滋賀特建営業所長、
東日本シルバーエイジ研究所長
西日本シルバーエイジ研究所長
総合技術研究所副所長を歴任。

シルバーエイジ研究所は、大和ハウス工業における医療・福祉分野の施設建設を専門に行うセクションとして1989年に設立。病院・老人保健施設・有料老人ホーム・グループホームなどのマーケティング、建設・運営の企画提案など幅広い実績がある。
また、大和ハウス工業における新規事業であるロボット事業を創業した。

2008年度経済産業省ロボット産業政策研究会委員。

著書には
「デイサービスセンターの開設・運営マニュアル(綜合ユニコム)」、
「北欧のノーマライゼーション(TOTO出版)」などがある。