~京都大学医学部付属病院広報誌よりご紹介~
女性の一生をやさしく強くサポートする産科婦人科
100年以上の歴史を持つ京大病院の産科婦人科。女性のヘルスケアを支援すべく、チーム医療で先進の医療に挑んでいます。少子化や晩産化といった社会背景のもと、どんな治療や研究を行っているのか、産科婦人科にクローズアップしました。
美しく激しく変化するその生涯のために
「女性の一生を診るのが産科婦人科という学問であり、診療科です。一方、男性の生涯を診る診療科はありません。それはなぜか。女性が地球上で最も美しい存在だからです」と語るのは、小西郁生科長です。そして美しさの根源には、変化の激しさがあると言います。子宮や卵巣を顕微鏡でのぞくと、刻々と形を変えていく細胞の様は驚くばかり。思春期や妊娠期の変化も劇的です。また、ストレスによってホルモンの調子が悪くなり排卵に影響するなど非常に繊細です。この激しく繊細な女性の生涯をサポートしているのが京大病院の産科婦人科です。
産婦人科の3本柱である周産期医学、婦人科腫瘍学、生殖医学の3つの柱に加えて、京大病院では思春期外来や更年期外来も設けるなど、女性のヘルスケア全体を支援しています。「ここまで幅広くきめ細やかにできるのは、京大病院ならではです。しかも各専門分野のエキスパートによって、高度な医療の提供が可能です」と、小西科長は胸を張ります。エキスパートである医師に、各分野の特徴を紹介してもらいましょう。
チーム医療でお母さんと赤ちゃんを守るために
産科では、お母さんと赤ちゃんに質の高い医療を提供するよう、医師や助産師が一丸となってチーム医療を行っています。さらに、NICU、手術室、麻酔科、救急部、輸血部など、関連する診療科や部門との連携の強さも特徴です。2010年からは、他の医療機関から搬送要請がある重症の妊産婦さんは、関連科に問い合わせをしなくても産科医の判断ですぐに受け入れる体制を整えました。病院一丸となった産科救急の支援です。
また、晩産化が進み妊娠高血圧症候群などの合併症が起こる確率が増える中、ハイリスク妊娠にも対応しています。万が一合併症が起こった場合も、母体胎児専門医が詳しく診て悪化を防ぐようコントロールし、安心して出産を迎えられるよう努めます。担当の近藤英治医師は言います。「これらは京大病院のマンパワーがあるからできることです。それが結果的に女性にやさしい医療につながっていると思います」。
一人ひとりに向き合う婦人科悪性腫瘍の治療
女性ならではの病気である子宮頸がん、体がん、卵巣がんなどの婦人科悪性腫瘍。京大病院にもたくさんの患者さんが来院しています。その背景には、高度医療に対する信頼に加えて、多くの病院で手術まで数カ月待ちだという状況のもと、患者さんをお待たせすることなく手術を行っていることです。馬場
長医師によると「病院全体の取り組みで手術室が効率的に使えるようになり、1カ月前後で手術ができるようになりました」。また、働く女性が増えて早く社会復帰したいという声に応え、手術の傷が小さく体への負担も少ない内視鏡手術を増やしています。
「個別化治療」も特徴です。同じがんでも個人差があることを重視し、放射線診断・治療科や病理診断科の医師とカンファレンスを行い、個々の患者さんの治療法を討議します。増加傾向にある30代の未婚女性の悪性腫瘍についても、患者さんの気持ちに沿った治療を行っています。「将来の妊娠を考えて子宮や卵巣を摘出したくない、という患者さんも多く、子宮本体を残して手術をし、その後の経過をしっかりと診ています」と、馬場医師は言います。
新たな取り組みも始めた不妊治療
晩産化に伴って不妊カップルが増加する今、不妊治療にも力を注いでいます。担当の堀江昭史医師は「患者さんの多くが30歳代後半~40歳代の女性です。プライベートクリニックで治療を受けて妊娠しなかった方、他科にかかっている持病を抱えた方なども含めて総合的に診ています」と語ります。最近では、子どものころにがんを患った方や抗がん剤治療を受けている方、膠原病の患者さんの妊孕能温存治療にも取り組み始めました。「相当難しいですが、新しい治療法を開発できる可能性があり、世界的にも注目されています。ただし、最先端の治療であっても、年齢という限界があるので、それはご理解いただきたいと思います」と、堀江医師は語ります。
卵巣がんの新しい治療を臨床へ
がんの新しい治療法の研究にも積極的です。そのひとつが、悪性度の高い卵巣がんに対して、これまでの抗がん剤とは全く異なるアプローチとして、免疫を活性化するメカニズムを使って治療をする臨床試験です。これは、京大病院の「臨床研究総合センター」と共同で行っており、世界に先駆けた革新的な研究として注目されています。担当する濵西潤三医師からは「かなり期待できると思います」と力強い言葉が聞かれました。女性の生涯をやさしく、そして力強くサポートするために、これらの研究にも力を注いでいます。