第2回 ips細胞 再生医学研究の最前線

 

山中教授のグループは血液からips細胞を作り出す方法を発見

「今、私たちが用いているのは、血液を採取して作る方法で、ips細胞は皮膚や色々な体の細胞に少ない遺伝子を導入するだけで、受精卵に近い力を持った細胞にできるのが特徴です。

ips細胞には大きな2つの性質があって、一つはどんどん細胞を増やすことができること。
今ひとつは増やしたあとに刺激を与えると神経や膵臓、腎臓などの臓器などを作ることができることです。

理論的には、体にある全ての細胞を作れるということなのです。そのips細胞で患者が病気になっている部分の細胞を大量に作って、病気の原因を究明するということができるようになるので、新薬の開発に繋がってきます。
一方、ips細胞を移植して機能回復を図ることもできるのです。」

「最も研究が進み、近い将来、臨床研究も行われると思われるのがパーキンソン病や血液疾患です。既に網膜の疾患、心臓疾患、脊髄損傷は慶応大学や大阪大学などで進んでいます。

私たちが行おうとしているのは、パーキンソン病です。
ドーパミンという物質を作る特殊な神経細胞に傷害があって、運動がスムーズにできなくなる病気ですが、ips細胞からこの特殊な神経細胞を作って、患者さんの脳に移植してして治療しようという試みです。

血液疾患に関しては、既に人の血液から血小板や赤血球を作ることに成功しています。
これを大量に作って患者さんに移植して治療にあたりたいと思っています。

患者さん本人からもips細胞を作ることはできるのです。本人の細胞からできているので、拒絶反応を回避できます。ですが、それには膨大な時間と費用がかかります。」


再生医療のためips細胞ストック計画を進行中

「そこでいま進めているのが『再生医療用ips細胞ストック』計画です。
ボランティアの方の末梢血や臍帯血から、予めips細胞を作って、安全に保管しておこうということです。
ですが本人の血液ではないので拒絶反応が起こることもあります。

そのリスクをできるだけ低くするために、細胞の血液型といえるHLA型を合わせる必要があるのです。HLAはそれぞれ違う2つの因子を持っています。両親からは違う型を引き継ぐので、
その種類は数万種にも及びます。

ですがまれに特殊な型のHLAを持った方がおられます。
両親から同じ型を引き継いだ方です。実際の日本人のHLA型のデータから1人のドナーで20%がカバーできることが分かっています。

昨年から京大病院に血液を採取する “ ips外来 ” というのができています。
採取した血液をクリーンルームでips細胞を製造、ストックして研究している先生方に送るのです。3月には倫理委員会などの承認を得て、血液採取、作製を実施しようと思っています」

最後に、今後のiPS研究所としての目標は

1、ips細胞技術の確立と知的財産の確保
2、再生医療用ips細胞のストックの構築
3、再生医療の臨床試験を行うこと
4、ips細胞による治療薬の開発を行う

の4つを挙げて、講演は終了した。


 

 

【山中 伸弥 先生略歴】
1987年 神戸大学医学部卒業、国立大阪病院で整形外科の研修医に。
1993年 大阪市立大学大学院医学研究科修了。
米グラッドストーン研究所博士研究員、
奈良先端科学技術大学院大学遺伝子教育研究センター教授などを経て、
2004年から京都大学再生医科学研究所教授。
2010年4月から京都大学iPS細胞研究所長。