文部両道で心豊かな医療人の育成を
国内有数の進学校で、東大・難関大学はもとより医学部に多くの合格者を出している北嶺中・高等学校(札幌市清田区)。6年間の一貫した学習指導に加えて、柔道、ラグビーを校技とし、全校登山を実施するなど文武両道の教育を通して心豊かな未来のグローバルリーダーの育成を目指している。医療人を志している医学部受験生のためにいま、どのような教育が進められているのか。谷地田穣同校長と医系専門予備校として全国一の合格実績を重ねている「メディカルラボ」本部教務統括、可児良友氏に語っていただいた。
北嶺中学校・高等学校
谷地田 穣 校長
北海道出身。京都の公立中学校教諭を経て、北嶺中・高等学校へ。長年、進路指導部長を務め、北嶺の進学実績を飛躍的に上昇させた。2013年 北嶺中・高等学校校長に就任し、同時に青雲寮の寮監長も務めている。
医系専門予備校メディカルラボ
可児良友・本部教務統括
1991年から大手予備校で医学部受験生を指導。2006年、「メディカルラボ」開校に責任者としてかかわり、現在は本部教務統括を務める。医学部受験に関する著書を多数執筆、医学部受験をテーマに数多くの講演を行っている。
学校法人希望学園 北嶺中高等学校
〒004-0839 札幌市清田区真栄448番地の1
1学年120人の少人数教育を行う併設型の中高一貫教育校。文武両道を教育の主体として、全人教育を目標としている男子校。2024年度の医学部進学実績は国公立40人、私立23人で、現役国公立医学部医学科の合格率は2022年に次いで、全国1位を達成した。
医系専門予備校 メディカルラボ
北海道から九州まで全国26校舎ネットワークを展開している医系専門予備校。完全個別の「授業・カリキュラム」「受験戦略」「担任制度」などの合格メソッドで、2024年度入試では医学部医学科合格者数1226名と医系門予備校では合格者数1位を続けている。
文武両道を掲げた建学の精神
可児良友氏 まず北嶺教育の根幹を教えてください。
谷地田穣校長 本校は1986(昭和61年)4月、北海道初となる完全中高一貫校を創設しました。イギリスのパブリックスークルを参考に、グローバルに活躍できる紳士的でエリートな男子生徒の育成すること、さらには、東京大学や医学部医学科などの難関大学に合格できる教育を実戦することを目標に掲げました。
校訓は「目は高く足は大地に、めざすなら高い嶺」です。文武両道をモットーに、学習面の育成はもちろんのこと、屈強な体力、強い精神力を育成するため、柔道とラグビーを授業で必修とし、さらには年に一度、北海道の山々の登頂をめざす全校登山を実施しています。柔道では、相手を敬う精神や自己との戦いとなる克己心を、ラグビーでは、「One for all All for one」やノーサイドの精神を、全校登山では、仲間とともに最後まで諦めずに山頂をめざす忍耐力や協調性を養います。これらは、6年間ともに仲間と過ごして、最後の目標となる大学合格の過程に必ず必要となります。
可児 柔道に力を入れておられますが、灘中・高等学校(神戸市)も講道館館長の嘉納治五郎氏が唱えた柔道の精神『精力善用』『自他共栄』を校訓に取り入れていました。しかし、ここは普通の高校とはそのレベルが違いますね。
谷地田 相手がいることで自分の技量を知ることができる柔道では、礼に始まり礼に終わる、相手に敬意を払う大切な精神を学ぶことができます。技だけではなく、人として重要な精神面も学ぶことができます。北嶺では年に1回、全校柔道大会を開催しますが、そこでは柔道連盟の方々に日頃の授業での稽古の成果を見ていただきます。各学年の上位者は、低学年でも黒帯(初段)を取得できます。高校3年生では、全員が昇段審査に挑戦し、ほぼ全員の生徒が初段を取得します。このような柔道の取り組みを通じて、強い精神力を身につけて欲しいですね。
柔道、ラグビーを正課に
可児 柔道やラグビーは正規のカリキュラムに組まれているのですか。
谷地田 柔道もラグビーも6年間、毎週1時間の授業としてカリキュラムに組み込んでいます。全校生徒が柔道やラグビーに取り組んでいる学校は、多分本校だけでしょう。ほぼ100%の生徒が初めて柔道やラグビーを行いますが、高校生にもなると、まるで部活動の生徒であるかのようなたくましいプレーを見せます。特にラグビーでは、チームプレーが大切となるため、ラグビーから得られる団結力は大学受験に大きくつながっていきます。
可児 なるほど。ラグビーは集団で体をぶつけ合い、スキンシップがあり、6年間で仲間意識がすごく育ちますね。それは受験にもいい効果が出ます。礼に始まる精神もまた社会人になった時に役立ちますね。
谷地田 卒業生を見ていると、北嶺で過ごした6年間の経験が、社会で大きく生かされていると強く感じます。部活動や進学実績が強いことを掲げている学校はたくさんありますが、北嶺が強調したいのは学校全体で生徒全員がさまざまなことに取り組んでいることです。ラグビーや柔道をはじめ、ハーバード大学の学生とのワークショップ、ニューヨーク市内研修、医療研修、サイエンス研修、ファイナンシャル研修、法律研修、ビジネス研修など、北嶺生は全員でさまざまな分野の学問を習得します。仲間とともに何事にも挑戦する力は、大学や社会では大きなものとなることでしょう。
可児 そうですね。勉強ばかりの生徒と比べ、精神力やコミュニケーション能力が高くなりますね。
谷地田 北嶺は、得意・不得意に関わらず、生徒全員にさまざまな挑戦をさせています。必ずや北嶺6年間の多彩なプログラムの中で、得意な分野や自分に向いている学問を見つけ出すことができ、一人ひとりの生徒が必ず輝くことができるプログラムを用意してあります。その中で、精神力もコミュニケーション能力も高めていくことができると考えています。
学力を高めていくために
可児 すごくいい話ですね。一方、学習面では医学部だけではなく、東大や難関大に合格させるための独自の指導があれば、ご紹介ください。
谷地田 6年間の一貫したカリキュラムで、大学受験に向けた効率的な学習を行っています。週6日制50分の授業を維持し、中2までには中学内容を習得し、中3からは高校内容を学びます。高1からは習熟度別に授業を編成し、高2から文理選択を行います。高3では、志望校別のクラス編成を行い、東大志望のクラス、医学部志望のクラスなど4クラスに細分化し、効果的な進路指導を行っています。
学習に関しては、学校完結型を目標とし、通塾を推奨はしていません。北嶺の宿題・課題、放課後や長期休みの講習に全力で取り組むよう指導しています。講習では、東大地理、医学部英語、共通テスト物理などのように、志望校に合った講座を多数用意しています。ほとんどの生徒が講習に参加し、北嶺の先生の指導に熱心に耳を傾けています。さらには、高3に対しては積極的に個別添削指導も行っています。問題点や課題点を見つけられコメントを書き、生徒の学習意欲向上につなげています。他学年の先生も、高3の添削指導にあたっています。
可児 なるほど。きめ細かな添削を、それも違う学年の先生にも見てもらえるんですね。多くの先生方にサポートしてもらえるのは良いですね。
谷地田 3年前に東大理三に入った2人は寮生でしたから、通塾はしていませんでした。担任の英語の先生から丁寧な添削指導を受けました。
高1では、約100名の生徒が「東京大学見学ツアー」に参加し、東京大学をはじめとする首都圏の難関大学のキャンパスツアーに参加します。OBが大学構内を案内するほか、東京大学では教授によるセミナーにも参加します。夜には、大学生や社会人のOBが参加する座談会も実施します。OBのさまざまな経験談をもとに、参加した生徒たちのモチベーションは高まり、東京大学をはじめとする難関大学に進学したいと、さらに勉強に真剣に取り組むようになります。
少人数教育の効用
谷地田 当校では開校時から少人数教育にこだわり、1学年2クラスの80名でスタートしました。しかし、北嶺へのニーズが高まったこともあり、7期生から現在の39期生では1学年3クラスの120名となっています。少人数のメリットとしては、生徒一人一人の顔を覚え、生徒の特徴をしっかりとつかみ、適切な生活・学習指導ができることです。生徒と先生方の距離も自然と近くなり、気軽に質問や相談をすることもできます。また、大学受験の指導では、先に述べた添削指導をはじめ面接指導も少人数だからこそ、きめ細やかに対応することができます。先生方に親身に指導を受けた卒業した大学生OBは、チューターとして併設の青雲寮に学習指導に来てくれます。先輩が後輩を指導するという構図も、北嶺ならではだと思います。寮生はOBからの手厚い指導を受けることができ、また、学校の先生方の夜間講習を受講できるほか、学習につまずいた場合は専門のスタッフによる個別指導を受けられます。低学年には、外国人講師による英会話教師も開催しています。
可児 先生方の夜間講習は塾・予備校の代わりになるのですね。
谷地田 はい、そうです。北嶺では「北嶺ファミリー」という言葉を大切にしています。預かった生徒をスタッフが最後まで面倒を見るというのも、少人数教育だからこそできる賜物だと思います。
少人数であるがゆえ、生徒だけではなくご家族の顔もよく知っています。また、私個人の携帯番号も保護者全員が知っています。入学式の時には必ず言います。「はい、皆さん、携帯を出して私の携帯番号を登録してください。日曜日でもいつでも電話に出ますよ」と。「この先生はうちの子を理解してくれない」と苦情をいうご家族には、「いつでも、何でも私にご相談ください。遠慮なく」と伝えています。
世界で活躍できる人材育成を
可児 学習カリキュラムのほかに東大や医学部志望を目指す生徒たちのモチベーションをどのように高めていますか。
谷地田 先に述べた東京大学ツアーをはじめ、中学生から「東大プロジェクト」と名を打ち、OB東大生や東大教授に来ていただき講演会を行っております。医学部志望者には、医学部進学をサポートするプログラムとして、医療への関心・医学部進学に特化した「メディカルスクール」があります。医師が来校して、最新の医療について学ぶ「メディカルセミナー」を月に1回開催します。ウイルス研究、整形外科、心臓外科など、多方面の分野の医師(保護者や卒業生)に来ていただいていますが、生徒はさらなる医療への関心をもち、医学部進学の大きな原動力となっています。
また、病院での医療研修にも力を入れています。礼文島の医療研修(Dr.コトーキャンプ)では、OB医師に協力をいただき、2泊3日での研修に取り組みます。参加する生徒は感化され、地域医療について大いに興味をもちます。また、保護者が医師として勤める病院には、本校の生徒のために積極的に医療研修を開催していただいています。手術室の見学や、ダビンチなどの最新の医療機器を使った模擬手術も体験します。
可児 それはすばらしい試みですね。
谷地田 北嶺はさまざまな探究型プロジェクトを用意していますが、メディカルスクールの他、グローバルプロジェクトにも力を入れています。世界で活躍できるリーダーの育成を目指し、開校から海外修学旅行を実施してきましたが、現在ではボストンにあるハーバード大学・マサチューセッツ工科大学に訪問し、大学教授・大学院生による特別講義を受講する他、現地学生たちと英語ワークショップに取り組みます。さらには、世界の中心ともなるニューヨークでさまざまな国際理解研修を行います。ハーバード大学での研修に先駆け、本校にてハーバード大学の学生による英語研修「北嶺ハーバードキャンプ」を開催しています。ハーバード大学の学生が10名ほど来校し、併設の青雲寮に1週間泊まり込んで、英語でのプレゼンテーションや英語でのワークショップの方法を丁寧に教えてくれます。
探究型プロジェクトの1つ「カルチェラタン」では、最高峰の音楽や芸術に触れ合う機会をもたせています。アメリカでは、ボストン美術館やメトロポリタン美術館にて研修を行い、ボストン交響楽団鑑賞やブロードウェイでのミュージカル鑑賞も行います。昨年は、劇団四季のリトルマーメードを鑑賞しましたが、生徒には大変好評で、感動して泣いている生徒もいました。雅楽師、東儀秀樹さんを招いたときは舞台で奏でる篳篥(ひちりき)の音にみんな驚いていました。
先日は、柔道男子81kg級の金メダリスト(東京、パリ五輪)、永瀬貴規さんをお招きしました。東京でのオリンピックパレードの参加を断ってまで、わざわざ来校いただきました。生徒全員が柔道着で出迎え、講演を頂いた他、生徒に稽古づけをしていただきました。北嶺では、さまざまな分野の本物に触れる機会がたくさんあります。東京や大阪の学校にも負けない、貴重な経験を北海道の北嶺ですることができます。
医学志望者へのメッセージ。
可児 最後に医学を志す若い人や保護者へのメッセージをお聞かせください。
谷地田 医師になりたいと考えて本校を選ぶ生徒が多く、その生徒たちに対して医療に関するさまざまなサポートを用意しています。先に述べたメディカルセミナーや医療体験の他、併設の青雲寮ではOB医学部生チューターからも指導を受け、医学部での実際の学びについても知ることができます。これまでに、北嶺からは約3600名の卒業生のうち1000名を超える卒業生が医学部に進学し、立派な医師として活躍しています。その先輩方が「北嶺ファミリー」の一員として、医学部を志望する生徒にさまざまな手助けをしてくれています。北嶺は小さな集団ですが、医学部進学をめざす生徒にとって北嶺の教育は大きなものとなることでしょう。
可児 北嶺に入学する前に、ご家庭で身につけておいて欲しいことなどありますか。
谷地田 本校の教育方針に共感し、第一希望(専願)で北嶺を選んで入学する生徒が多くなり、とても嬉しく思います。入学した生徒の進路の実現に向け、先生方・生徒・ご家族の方が一丸となって前進できるのも、少人数ならではの強みだと思います。小学生の皆さんには、ぜひ一度本校を見学に来て欲しいと思います。自然豊かな環境下で伸び伸びと過ごし、6年間で貴重な経験をたくさん積むことができる北嶺に、必ずや興味を持っていただけるのではと確信しております。最後に、お子さんたちが、最低限の身の回りの整理整頓ができるようになって、北嶺に入学してくれるとありがたいと思っております。
可児 ありがとうございました。
コメントをお書きください